こども・未来保険の創設を

【海老原】その原理を変えるために、国も新たな政策でもって後押しすべきだと思います。たとえば、働く女性に関する問題のひとつに育児負担の重さがありますが、これはイクメンを推し進めると同時に、社会全体が育児を請け負う仕組みをつくることで解決が可能なのではないでしょうか。国は現在でもベビーシッター料金の補助などを行っていますが、まだ規模が小さく利用者数も伸びていません。こうした外部サービスを爆発的に浸透させる方法として、私は「こども・未来保険」という社会保険の創設を提案します。

現在の「こども保険」構想を改変し、給付のカバー範囲を育児関連、不妊関連、出会い・婚活関連、おひとりさま関連に拡大するのです。こうすれば育児だけでなく誰にでも起こりうるリスクをも含むため、広く納得を得やすいのではないでしょうか。この制度が実現すれば外部サービスの活用が進み、「家事育児は妻・嫁がすべきだ」という間違った常識も是正されていくのではと思います。過去には、介護保険制度の創設が同じような効果を生みました。

寝たきり、垂れ流し、自力寝返り不能…乳児は要介護5と同等の状態

【上野】同じ意図で、私たちは以前からユニバーサルな「社会サービス法」を提案してきました。必要な人に必要なとき、必要なだけ、年齢を問わずサービスを提供するための制度をつくりましょうと。たとえば、高齢者が要介護の認定を受けたらケアマネジャーがつきますよね。同じように、妊婦さんにもケアマネがつけばいいと思うんです。

社会学者の上野千鶴子さん。乳幼児には、月36万円程度の介護サービスを利用できる要介護5と道程度の支援が必要と話す(撮影=市来朋久)
社会学者の上野千鶴子さん。乳幼児には、月36万円程度の介護サービスを利用できる要介護5と道程度の支援が必要と話す(撮影=市来朋久)

今、最重度の「要介護度5」の認定基準は、寝たきり、垂れ流し、自力寝返り不能となっています。これって、実は乳児もまったく同じ。ですから、新生児を「要育児度5」と認定して、成長につれて要育児度がだんだん下がっていくしくみにしたらいい。日本では、要介護度5の人は、月額36万円程度の利用料を上限とする、世界的に見てもかなり手厚いサービスを受けられます。育児に対してもこれと同等の社会サービスを提供すれば、働く女性たちが子どもを育てやすくなるのではと思います。

【海老原】それは非常に明快でいい案ですね。新生児も妊婦さんもケアが必要という点では同じですから、要介護者と同じく適切なサービスが提供されるべきでしょう。