調理経験のない人を次々とコックに仕立て上げる

やがて、カレー屋ではなく人を呼ぶほうが本業になってしまう経営者も現れた。多店舗展開し、そこで働くコックをたくさん集めてきて、もはや会社設立の500万円とは関係なく、1人100万円、200万円といった代金を徴収する。

「なんで自分の店でこれから働く人にお金を払わせるのか。おかしな話なんですよ」

それでも海外で稼げると思った人たちは、どうにかお金を算段して志願する。彼らを呼べば呼ぶほど儲かるわけだから、誰だっていいとばかりに調理経験のない人もコックに仕立て上げた。

本来、調理の分野で「技能」の在留資格を取得するには10年以上の実務経験が必要となる。しかし一部のカレー屋オーナーは日本の入管に提出する在職証明などの書類を偽造し、新しくやってくるコックのビザを取得していたのだ。

カレーとナンのつくり方なんか自分が教えればそれでOKという経営者たちが、次から次へと母国から人を呼んだ。だから現場にはスパイスのこともよく知らなければ玉ねぎの皮もけないコックがあふれてしまった。「インネパ」の中にはぜんぜんおいしくない店もちらほらあるのはそのあたりに理由がある。僕が取材したあるカレー屋のコックはこんなことを教えてくれた。

「日本に来て初めてナンを食べたよ。おいしいって思ったね。でも、つくり方は知らなかった。そうしたら社長が『YouTube見て勉強して』だって。はじめはタンドールでヤケドばっかしてたけど、やっと慣れてきた」

この方はいまも大阪で元気にカレーをつくっている。

実態はカレー屋ではなく“ビザ屋”

Rさんは言う。

「このプロセスをコピペする人たちがどんどん出てきたんです。だから日本でカレー屋がこんなに増えたんですよ。これはもうビザ屋であって、カレー屋ではありません」

コックが経営者となる過程でブローカーになって人材ビジネスを展開し、彼らに大金を払って日本に来た人たちもやがて同じようなルートをたどる。こんなサイクルができ上がった。肝心のカレーはぜんぜんおいしくなくて、閑古鳥が鳴いているのに、ふしぎとつぶれない……そんなインド料理店も見るようになったが、こうした店の本業は「ビザの手配」なのだとRさんは語る。

入国管理
写真=iStock.com/yuriz
※写真はイメージです

また、ネパールから呼んだ人間を自分の店で働かせるならまだしも、工場に「派遣」するケースもあったと聞く。コックの分野で「技能」の在留資格を取っているなら、工場で働くのは完全に違法である。ちなみに経営者は、自分のツテでコック志願者を集めたり、ネパール側のブローカーと協力するなどしているそうだが、親戚筋であってもお金を要求することがあるようだ。そのあたりの額は人間関係にも縁戚関係にもよるという。

「でもふしぎなものでね。近い親族だから、あの人には世話になったからって、お金を取らずに日本に呼んでるいい人もいるんだけど、私が見る限りそういう人たちはみんな成功してない。元手の軍資金がないから。借金なしで日本に来たほうも、ハングリー精神がないからなのか、あまりがんばらない。だからうまくいかない」

なにが正しいのかわからなくなってくる話なのだ。