髪型はセンター分けから七三に

もちろん横澤をはじめ番組スタッフも手を拱いていたわけではなく、タモリが「昼の顔」になれるよういろいろと工夫をした。事前に横澤は、タモリがメインの夜11時台の深夜バラエティ「今夜は最高!」のチーフ・プロデューサーである中村公一に電話をしている。

横澤の話を聞いた中村は、夜の顔のタモリは出さないように頼んだ。それを受けた横澤は、番組のサブタイトルにわざわざ「森田一義アワー」とつけて「昼の顔」を強調した*4。

また、番組開始当初、誰もが驚いたのが、タモリの髪型と身なりだっただろう。「密室芸人」タモリのビジュアルと言えば、髪を真ん中から分けてべったりと撫でつけ、ティアドロップ型の黒のレイバンのサングラスという正体不明の風貌がお馴染みだった。そしてその見た目が、数々の密室芸の怪しさを増幅させてもいた。

ところが、「いいとも!」が始まったとき、タモリのビジュアルは一変していた。サングラスはそのままだったものの、色は薄めでティアドロップ型とは異なるちょっとおしゃれなかたちのもの。そして髪型はセンター分けではなく七三分けに。

そして服装は、エンブレムのついた紺のジャケット、折り目のついたグレーのスラックスにネクタイを締めている。いわゆるアイビールックである。

もちろん、こうした爽やかさを強調したファッションも、「昼の顔」を演出する一環だった。ただしそれは、ある意味上辺のこと。横澤彪が狙ったのは、昼間の主な視聴者層とされる主婦層に支持されるような無難な笑いではなく、あくまで知的な笑いだった。

「観客」ではなく「視聴者」を相手にせよ

たとえば、横澤は、当時タモリに「ここ(引用者注:新宿スタジオアルタのこと)の現象だけで笑う客をあてにしてるとギャグが言えなくなるから、テレビ観てる人が何万倍って多いんだから」と言っていたという。

「観客」ではなく、「視聴者」を相手にせよ、と助言したわけである。横澤は、高学歴化が進む世の中で、視聴者のレベルはきわめて高く、演者の感覚さえ上回っていると考えていた*5。そう感じていたのは、タモリも同様だった。

最初タモリは、アルタの観客は「18歳未満禁止」でいきたいと考えていた。それは実現しなかったが、始まって1カ月ほど経った頃の「話題の盛り上がり方が、主婦のペースではない」ことに気づき、「いけるな」と思うようになった*6。

つまり、主婦ではない視聴者層、たとえば昼休みのあいだに職場や食堂で見ているサラリーマン、自室で見ている大学生のような視聴者からの反応が、「いいとも!」を支えたのである。

こうして、外見は世間の“良識”を代表するようなもので主婦層から反発を受けないようにカモフラージュしつつ、「密室芸人」タモリは、なんでもないような素振りで「昼の顔」に収まることに成功したのである。