日本の株高も物価高も「円の劣化」で説明がつく

逆に言えば、日本の株高も物価高も「円の劣化」の反映と言える。円建ての株価が大きく上昇しているが、ドル建てで見れば上昇率が低い。もちろん前述のようにドル自体も劣化しているから、それでも過剰評価かもしれない。例えば、世界史上の初期から通貨として価値保存に使われてきた金1グラムの円建て小売価格は、1月4日に1万375円だったものが3月27日には1万1773円になった。13%も上昇しているわけだ。日経平均株価の20%の上昇のうち、13%は「円の劣化」で説明が付くということになる。

円マークと下降していく矢印のイメージ
写真=iStock.com/andriano_cz
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つまり、株価が大きく上昇しているのは、日本経済が復活すると世界の投資家が見ている結果というわけではないのだ。

今、日本株やマンション価格の高騰を「バブルだ」という人がいる。だが1980年代後半のバブルを知っている人からすれば、その様相はまったく違うと感じるだろう。当時、土地や株価など資産価格の上昇は広く一般庶民の消費行動も大きく変え、まさに消費バブルが起きた。1台500万円以上の高級車が飛ぶように売れ、日産の自動車の名称から「シーマ現象」と呼ばれた。消費に一気に火がつき、企業収益も一気に改善した。その後の大幅な金利の引き上げや不動産融資の規制強化で一気に「バブル」が潰れることになる。

今がバブルだとすれば「円劣化バブル」だ

今の株価上昇を「バブル」だと呼ぶとすれば、かつてのバブルとはまったく様相の違う「円劣化バブル」と言えるだろう。そんな円劣化が悪性のインフレ(物価上昇)に火をつければ、一般庶民の生活は一段と苦しくなる。そうなれば、消費を増やすどころか、生活を守るために倹約に拍車をかけ、消費を抑える方向に行く。もちろん、株高の恩恵を受ける富裕層は消費を増やすかもしれないが、日本経済全体としての好循環が始まるのかどうか。

円の劣化はドルなど外貨で稼げる企業や人の収入を実態以上に大きく見せる。つまり、海外子会社が同じ利益を上げていても、円安が進めば円建ての利益は増える。しかし、大半の企業は日本円に転換して利益を国内に持ち込むわけではないので、日本の従業員の給与が増やせるわけではない。また、日本国内だけで商売をしている会社やそうした企業の従業員は、円の劣化によるコスト上昇を価格に転嫁すれば、販売自体が落ち込むことになりかねず、値上げすらできない。国内型産業は、円の劣化がモロにマイナスになる。

物価上昇を起こせば賃金が上がり、生活が良くなる――。今政府が進めている「壮大な実験」がどんな結果をもたらすことになるのか。その結果が出る時に日本の国民がどんな影響を受けるのか、今の段階では見通せない。

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