ハマっていた「ネガティブのループ」

カウンセリングでは他者と関わるときの思考や行動のクセ(自我状態)を客観的に理解するために、「エゴグラム」を実施します。これは「交流分析」という心理療法で使われる性格分析の手法で、どのクライアントさんに対しても行います。

Aさんは求める理想像が高く、自分だけでなく相手に対しても厳しい見方をしてしまう「葛藤型」というタイプ。一方で自己肯定感は低く、自分の意見や気持ちを伝えることができずにストレスを溜めてしまう傾向があります。不安を抱えてカウンセリングに来る人の多くがこの「葛藤型」です。

「大人げなく怒ってしまう」のは、いつも感情を抑えているため、それが溜まった時に爆発してしまうからなのでしょう。怒った後に自己嫌悪に陥り、さらに自己肯定感が下がってしまう……というネガティブのループにハマっている状態です。

そして、カウンセリングを続けてみると、感情を出せないのは育った環境が大きく影響していました。Aさんの父は高圧的な人で、母はいつも叱責されていました。母は心に余裕がない状態で、Aさんは「迷惑をかけてはいけない。自分がしっかりして、弟も守らなきゃ」と思っていたといいます。事情を知っている叔母からも「お母さんを助けてあげて。あなただけが頼りだから」と言われており、自分よりも家族のことを優先に考えるようになっていったそうです。

口論している男女のシルエット
写真=iStock.com/kieferpix
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Aさんに必要だったのは「自己肯定感」

Aさんは心が不安という感情でいっぱいなまま大人になったのでしょう。孤独感や絶望感も強い状態だった彼女にまず必要なのは、安心で満たし、自己肯定感を高めることです。そして、自己肯定感を高めるためには「I’mOK」を出せること。つまり、ありのままの自分を認められることが大前提ですが、長い間、それができていない状態でした。

そこから、時間をかけてさまざまな心理療法を行いました。潜在意識を書き換える本格的なものに加え、不安を軽減する「回転ワーク」、過去の嫌な記憶を追い払う「スイッシュ」、相手の立場に立って考えてみる「リフレーミング」など、たくさんのワークを実践。疲れやすい、不眠なども訴えていたので、同時に自律神経を整えるためのトレーニングも行っていきました。

3カ月ほど経ち、感情も安定して、自分を客観的に見つめられるように。振り返ると夫はAさんの行う家事や子育てにもかなり意見を押し付けてくる人でしたが、理不尽でもずっと我慢してきました。でも、溜まりに溜まった怒りをぶつけてしまうことはあっても、きちんと夫と向き合って自分の気持ちを伝えたことはなかった、ということに気づいたのです。