吉野家が豪州産牛肉を使いたくても使うことができなかった理由

かつて牛丼屋から牛丼が消えたことを覚えていますでしょうか? 2003年12月24日、アメリカでBSEが発生し、米国から牛肉の輸入が全面停止となりました。翌年2月には牛丼チェーン各社で牛丼の販売を中止しメインメニューが豚丼に切り替わるという予想だにしていない事態に陥りました。

吉野家では全店舗で24時間牛丼を提供できるようになったのは2008年3月と牛丼の販売を休止してから4年1カ月後のことでした。一方のすき家はというと、休止してから7カ月後の2004年9月には早々に牛丼を復活させています。

なぜすき家と吉野家の牛丼復活のタイミングにここまで差ができたのか? その理由はグループが抱えている業態の違いにあります。

下記の有価証券報告書とHPの資料を見ると、吉野家HDは売上の67.1%が牛丼の吉野家となっています。

海外の吉野家を含めると実に約80%が吉野家業態。牛丼一本足打法と言っていいくらいの牛丼比率です。

一方のゼンショーはというと、決算説明資料によるとなか卯を含めた牛丼業態の売上比率は2023年3月期で33.6%と約3分の1となっており、ファストフードやレストランなど幅広い業態を抱えています。

BSE問題が発生した当時、すき家はオーストラリア産牛肉を使用し、牛丼を再開させましたが吉野家はそれをしませんでした。もちろん、アメリカ産牛肉を使うことで吉野家の味を守りたいという意向はあったと思いますが、吉野家はオーストラリア産牛肉を使いたくても使うことができなかったのです。

その背景にはアメリカ産牛肉とオーストラリア産牛肉では取引条件の違いがあります。アメリカ産牛肉は部位ごとのパーツ売りをしてもらえますが、オーストラリア産牛肉は基本的に一頭丸ごとのセット販売です。

牛丼はショートプレートという脂身の多い安価なバラ肉の一部しか使用しません。そのため、パーツ売りのアメリカ産牛肉はとても使いやすいのです。しかしオーストラリア産牛肉の場合は、ショートプレート以外の部位もついてくるのでそれを使う必要があります。

当時からココスやビッグボーイなど幅広い業態を抱えていたゼンショーは他の部位も問題なく使えますが、牛丼一本足打法の吉野家にはそれができません。そこが牛丼復活までの期間の差に繋がったわけです。

BSE発生当時、すき家は店舗数で吉野家と圧倒的に差をつけられていましたが、2008年には逆転。現在では逆に大きな差をつけています。

このように多様な業態を抱えることで食材を効率的に活用することができるようになるわけですね。日本最大の外食チェーンとなったゼンショーがロッテリアを傘下に収め、今後ハンバーガーの絶対王者マクドナルドにどう立ち向かうのか注目です。