この公演では、S席1万3500円とA席1万円が発売された。(大阪公演はS、A席、松本公演ではS、A、B席のみ、B席は7500円)。その後、公演直前の同月24日から「注釈付S席」が発売された。料金はS席と同額の1万3500円。

公式サイトによると、注釈付きS席について「1階前方端のお席となりますが、舞台の一部が見えにくいお席となります。あらかじめご了承ください」と書いてある。

東京公演注釈付S席の販売決定を伝える告知記事
注釈付きS席の販売決定を伝える記事(舞台「サンソン ルイ16世の首を刎ねた男」公式ホームページより)

別の例を挙げよう。同年9月の東京渋谷・東急シアターオーブで行われた舞台「アナスタシア」は、当初S席(1万4000円)、A席(9500円)、B席(5500円)、R席(1万6000円、ロイヤルシート席)の4席種だった。

公演直前に「【東京公演】注釈付S席を開放!」と題する告知記事が掲載され、8月25日から「注釈付S席」の販売が行われた。料金はS席と同額の1万4000円だった。こちらも注意事項に「注釈付は場面により見づらい可能性のあるお席です」とあった。

ミュージカル「アナスタシア」公式ホームページの注釈付きS席の記事
注釈付きS席の販売決定を伝える記事(ミュージカル「アナスタシア」公式ホームページより)

見えづらいのにS席はおかしい

今回筆者が問題提起したいのは「なぜ見えづらい席がS席なのか」という点だ。注釈付きとしながらも、S席と同額の料金を観客から徴収する合理的な理由はあるのだろうか。

注釈付きながらS席とする理由は、ステージから離れている、というよりステージの真横であったり、演出上見づらい場面があったりするというものだ。ステージの近さで言えば、S席扱いにできるが、見づらいのでそれを注釈で示し、S席と同じ料金で売るケースが多いと思われる。

そもそも、見えづらい席をあえて購入したがる消費者はいるのだろうか。ここで挙げた2例のように、チケット販売開始後に追加してチケットを放出するケースは多い。つまり「はじめは見づらいという理由で販売しないことにしていたが、用意した席が売り切れとなり、見たい人のために追加で販売するが、料金はS席と同じ設定にする」ということだろうか。

明らかに消費者の足元を見ている商売だろう。あらかじめ注釈付きS席を設定してチケットを販売する場合もあるが、この名称を用いている以上、決して良心的とは言えない。