「安くておいしい」と思った瞬間に成長は止まる

「サイゼリヤの料理は最高だ! 安くておいしくて申し分がない」

もし私がそう言い出したらどうなると思いますか? サイゼリヤの従業員は「もう努力しなくていいんだ」と、気を抜いてしまうでしょう。本来なら、価格も味も日進月歩で進化していくべきですが、現状維持すらできなくなってしまうかもしれません。

人とは本当に不思議なもので、どんなに能力が高くて優秀な人でも、努力をやめた途端に劣化・衰退してしまう性質があります。私自身が、そしてサイゼリヤの従業員みんなが、今のメニューについて「まずくて高い」と捉えているからこそ、より「安くておいしい」方向へ、「人のために」「お客様のために」なる方向へと、少しずつでも向かっていけるのです。

崖を登る男
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです

物理の法則からヒントを得た経営の哲学

ここで少し物理学の話をさせてください。

学生時代の私はアルバイトをしたりして、あまり勉強はしませんでした。でも専攻していた物理学がとても好きで、その考え方には大きな影響を受けています。物理の法則を経営や人間の生き方に当てはめると、腑に落ちることばかりです。

この「努力をやめた途端に駄目になる」という現象は、エントロピー増大の法則で説明がつきます。

エントロピー増大の法則とは、大まかに言うと「物事は放置すると、すぐに乱雑で無秩序で複雑な方向に向かい、自発的には元に戻らない」という原理のことです。

たとえば、いったん部屋が散らかり始めると、どんどん汚れ、物が増え、収拾がつかなくなることがありますね。それはエントロピーが増大した状態です。それを片づける、つまりエントロピーを下げるには、努力が必要になります。

このエントロピー増大の法則と同じで、「これでいい」と現状に満足したところから、人は乱雑で無秩序で複雑な方向に向かい、進歩できなくなってしまうのです。

「サイゼリヤの料理は、高くてまずい」そう言い続けていると、自然と欠点が見えてきます。問題や課題と言い換えてもいいでしょう。