オリビアは、2歳になるまではごく普通の子どもだった。例外は、病気にかかりやすいことと、異常なまでに軟便だったことだ。ともに薬剤師であるオリビアの両親エリンとタイラーは当初、消化器系に問題があるのかもしれないと考えていた。しかし、家族ぐるみの付き合いがある小児神経科医の友人からある日、オリビアは特異な顔つきをしていると指摘を受けた。

「その友人から、オリビアはサンフィリッポ症候群だと思う、と言われた。聞いたことのない病名だった」とエリンは振り返る。「そう指摘されたその週末にすぐ、あらゆるタイプのライソゾーム病について詳しく調べてみた。その一種であるサンフィリッポ症候群についての情報を見つけたときは、オリビアがこの病気でないことを祈った。実を言うと、サンフィリッポ症候群だとは思わなかった。そのころはまだ、関連する問題行動が見られず、おもに医学的な問題だけだったからだ」

サンフィリッポ症候群を患う子どもたちのために治療法を開発する非営利組織キュア・サンフィリッポ財団の最高科学責任者(CSO)カーラ・オニールによると、サンフィリッポ症候群は重症度に幅があるが、いずれ死に至る遺伝子疾患だ。オニールが本誌に対して以前語ったところによると、発生率は7万人の新生児に1人で、子どもの脳だけでなく体をも蝕む。

米国内の患者数は20万人未満の難病

米国内の患者数は20万人未満で、難病に指定されている。患者数20万人未満という難病の定義は、1983年に制定されたオーファンドラッグ法で定められた。

全米希少疾患患者協議会(NORD)によると、ライソゾーム病は、酵素の欠損によって、分解されるはずの有害物質が細胞内に蓄積してしまう、遺伝性の代謝性疾患の総称だ。欠損している酵素によってさまざまな病気が引き起こされる。その種類はおよそ50種類あり、骨格から脳、皮膚、心臓、神経系まで、体内さまざまな部分に影響を及ぼす。

血液検査の結果、2022年3月28日、オリビアがサンフィリッポ症候群であることが明らかになった。

エリンは本誌にこう語る。「家族ぐるみの友人のおかげで、遺伝子検査を急いで予約し、遺伝子検査クリニックに適切なテストを依頼することができた。オリビアの顔つきと病歴から、いずれはそう診断が下されたとは思うが、検査は役に立った」

ボストン小児病院の公式サイトでは、「サンフィリッポ症候群は、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)という形式で遺伝する。これは、この症候群の子どもは、親のそれぞれから、酵素生成を担う遺伝子の欠陥コピーをひとつずつ受け継いでいるという意味だ」と説明されている。オリビアの両親は、自分たちの遺伝子に問題があることについてはまったく気がついていなかった。