政策目的を欠いた「高齢者へのばらまき」だった

戦後一貫して、平均寿命は延び続け、新宿区で制度が始まった1996年の平均寿命は男性77歳、女性83歳で、祝い金支給開始年齢の70歳(古希)は平均寿命を大きく下回っています。過去には長寿をお祝いしていた節目は、制度がスタートしたときから、すでに社会通念にそぐわなくなっていたのです。敬老祝い金は最初から政策目的を欠いた、高齢者へのばらまきであることがよくわかります。高齢者偏重政治の象徴であり、少子高齢化に伴う財政難に多くの自治体が陥る中、一刻も早く見直すべきものです。

新宿区では2024年度の予算案では、敬老祝い金の70歳への支給を廃止するほか、96歳から99歳まで毎年の支給していたのを95歳だけに縮小、年間約2000万円を削減しました。予算案の審議をめぐって、予算特別委員会に参加したすべての区議から反対意見が出ることはありませんでした。それは、高齢者自身も、高齢者偏重政治を望んでいないからです。

私は選挙中、多くの高齢者から「税金は、使って消えるお金ではなく、子育て支援など未来に向かって投資してほしい。応援しています」という声をいただきました。これは新宿区に特有のことではありません。

「高齢者に忖度しなければ選挙に勝てない」という思い込み

2014年に静岡市が実施した市民意識調査では、「敬老事業の個人に対する贈呈を縮小し、市全体への高齢者施策への充実を検討すること」に対し、70歳以上の高齢者の71.2%が「賛成」「どちらかといえば賛成」であると回答しています。市民全体での賛成率は73.5%だったので、高齢者もそうでない人もほとんど同じ意見であることがわかります。多くの高齢者は限りある税金を先がないバラマキではなくきちんとした目的のために使うべきだと考えているのです。

祝儀袋
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高齢者自身も望まない敬老祝い金が、長年続いてきたのは、政治家が「高齢者はバラマキを求めているはず」と思い込み、一方的な忖度そんたくがあったからです。さらには、高齢者の票がなければ選挙で当選できない(と思っている)からに他なりません。

新宿区にもまだまだ多くの、政策目的を欠いた高齢者偏重予算が残されています。芸能人を呼んで歌謡ショー行う敬老会(約2000万)、60歳以上の高齢者が年間銭湯に無料で48回入浴できるふれあい入浴(約2億4500万)などです。政治家の忖度を打ち破るためには、さまざまな事業継続の前提として、市民意識調査を行うことが必要です。