恋愛のステップとして「覗き」が欠かせなかった

人の生活を誰かが覗くという設定。実はこれは、当時の貴族にとってはわりと受け入れやすいものだった。

当時は、恋の一段階として“垣間見”という習慣がある。文字通り、垣根のスキ間や、土塀の崩れなどから、お目当ての異性を「垣間見る」。早く言えば「覗き」である。

というと聞こえが悪いが、年頃の娘のいる家では、娘を男に見てもらうため、わざわざ覗きの機会を作ったくらいなのだ。

というのも、高貴な女は人前にめったに顔を見せない当時、男が女を「見る」、女が男と「会う」というのはイコール「セックス」を意味していたと考えていい。だから恋は「会う」までが勝負。噂や垣間見で恋心をつのらせた男は、ラブレターでアタックする。最初は代筆だったのが、直筆の手紙をもらえればしめたもの。文通が始まり、うまくいけば御簾や几帳を隔てた対面が許され、やがて女房などの手引きによってセックスにもちこむことができる。

「垣間見」の間に男女が互いを品定めする

つまりセックスするまで名目上は「会えない」わけで、「俺はこの女で行くぞ」と男が心にゴーサインを出すきっかけは、垣間見にかかっているのである。一方、女側も、顔も見せずに男と会って、「俺の好みじゃなかった」などとヤリニゲられてしまうよりは、姿を見せて気に入ってもらったうえで男と会ったほうが、幸せにつながるため、

「私はこんな姿形です。うちの暮らしぶりはこんなです」

とアピールできる垣間見は必要なのである。もちろんその際、女側も、部屋の奥から男の容姿や物腰をチェックしたのは言うまでもない。その段階で「気に入らないわ」と思ったら、手紙に返事をやらなかったり、それとなく拒絶の歌を詠んでやればいい。

容易に会えない時代だからこそ、男も女も、恋には「覗き」が必要だったのだ。