多くの行為者に刺さる考え方

そんなにきれいに話をまとめることができるのか。そう思われるかもしれません。

どうすれば「パワハラ行為を止めるべき」「振舞い方を変えるべき」と自覚してもらえるのか。マジックワードというほどではありませんが、多くの行為者が同意してくれる考え方があります。

もともと会社が費用を負担してカウンセリングを受けさせる人たちは、仕事の能力や取り組み姿勢については、評価のわるくない人が多く、本人たちも、今後も活躍したいと考えています。

そうであれば、職場に気に入らない相手がいても、あるいは、その人たちのせいで困ることがあっても、そんなところで「パワハラをされた」などと騒がれ、つまずいている場合ではありません――これが私からのアドバイス(の1つ)で、十分に理解してもらえるよう丁寧に伝えていることです。

長い社会人生活の中で、現在どんな立ち位置にいるのか。職場でハラスメントだと言われ、私のようなカウンセラーと顔を合わせるのは、一体どういうことを意味するのか。こうしたことを客観的に捉えるように促すのです。

聴診器と心臓の絵
写真=iStock.com/Antonio Carlos Bezerra
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不愉快な顧客を担当したら

パワハラとは別の例で考えてみましょう。

あなたの担当する顧客が、いちいち嫌なことを言ってくる人で、あなたの言動について、日々重箱の隅をつつくような難癖をつけてきます。

その相手は、あなたをいじめたいというよりは、単にネガティブな性格のようですが、あまりに不愉快です。

あなたはこの顧客が放った一言ひとことを思い出して、憎しみまで感じ、憂鬱ゆううつな気分が続きます。

もう仕事を断ってしまおうか。いや、そんなことはできるはずがない。担当を代えてもらうよう上司に申し出たい。しかし、大事な得意先の担当を降りるのは、自分のキャリアにとってもよいはずがない――こんな悩みがあるとしましょう。

本人にとっては苦しい状況ですが、客観的に見れば、どうするのが正解なのかは、わかるはずです。ここでおかしな行動をとって、躓いている場合ではないでしょう。

大事なのは、その顧客の会社から継続的に受注すること、できればさらに多くの仕事をもらうことです。

簡単だとは言いませんし、我慢することが唯一の解決方法でもありませんが、本当に考えるべきことは、ビジネスのことであり、顧客の性格のわるさのことではありません。

職場での言動が問題視され、カウンセリングを受けるパワハラ行為者――ほとんどの場合、彼らも(自分ではなく)被害者のほうに非があると信じています――が考えるべきことも、この例と同じなのです。

私はこのことを行為者本人に伝えます。「簡単ではないと思いますが、これからは大丈夫そうですか」とも尋ねてみます。