何もかも拒否する父親

10月。とうとう父親は家の中でも転倒を繰り返すようになった。

夜中の2時頃トイレに向かう途中で転倒し、起き上がれなくなった父親はそのまま夜を明かし、朝、目を覚ました母親に見つかる。

母親に見下げられている形の父親は、「何しに来たんだ!」と息巻くが、起き上がれないままトイレに間に合わず、尿失禁しており衣服はべちゃべちゃ。

母親の力では起き上がらせることができず、父親も誰かに起き上がらせてもらうことを望んでいないため、起きてきた白馬さんは出勤する準備に集中する。それでも母親に対する父親のひどい言い草にイラッとした白馬さんは、「ケアマネさんに来てもらうよ」と声をかけると、介護サービスを利用することを嫌がる父親は死物狂いで起き上がり、トイレに行ってから着替えもせずにベッドへ。とにかく他人の手を借りたくないらしい。白馬さんは母親に、「何かあったら電話してね」と言って出勤する。

「本人はヨレヨレで顔色も悪く呂律も回っていなかったのですが、エベレスト級のプライドがある父には口出しも手助けも無用です。うっかり関わると自分のメンタルがやられます。妻である母ならともかく、自分より下に思っている娘なんかに弱みを見せるわけにはいかないようで、いかにも通常を装っていました。そんな父ですから、打ち所が悪く、後々意識混濁になっても寝たきりになってもどうしようもありません。私は正直父の介護はやりたくないです」

12月になると、買い物にいけなくなった父親がテレビ通販でさまざまな食材を買いあさり、もともといっぱいだった冷凍庫の密度がさらに高まった。

さらに父親は、トイレに行く時間が母親とかぶると、我慢できず浴室でするようになる。

失禁して床を汚すことも増えたため、オムツを勧めるも、案の定聞く耳を持たない。

そんな2023年1月。白馬さんの仕事中に、珍しく父親から電話が入る。母親の具合が悪いらしい。

「すぐに救急車を呼んで!」と白馬さんが言うと、「無理だ。俺は救急車に付き添いできない!」と父親。白馬さんは、「お父さんしかいないでしょ。すぐに救急車!」と言って電話を切ると、上司に早退させてもらう。

途中、気になって家に電話すると、「まだ救急車呼んでない。俺の準備ができてない。着替えもしないと」と父親。その言葉に白馬さんは衝撃を受ける。

以前、買い物に行くことができていた頃、父は2週間に一度しか入浴せず、着替えもしなかった。また、失禁したままの服装でベッドに寝ても平気。にもかかわらず、この日に限って身だしなみを気にする。これが、老いるということなのだろうか。

「自分の服装の心配? 意味不明過ぎる! 全く使い物にならない!」

父親を見限った白馬さんは、すぐに119番通報。救急隊員は、「娘さんが戻ってくる頃まで搬送先は決まらないと思うので、同乗できるでしょう」と言った。

会社から実家は電車で30分。帰宅すると、父親は股引に片足を突っ込んでアタフタしていた。

「結局母は大事には至らず、精密検査を終えたらすぐに帰ってこられたのですが、もし緊急事態だったら母の命はなかったな……と思いました」