ヅカファンの「宝塚離れ」は起きているのか

さまざまなトラブルがありましたが、歌劇団の公演にはいまも客が押し寄せています。休演が多いため、むしろチケットはプラチナ化しています。阪急阪神HDのグループ経営企画室によると「通常と変わらず、多くの方に観に来ていただいています」という状況です。宝塚歌劇には「初日を観て、中日を観て、千秋楽を観る」「地方公演にも出向く」といった熱狂的なファンが多いのです。

宝塚歌劇団のプロデューサーや宝塚総支配人を歴任し、現在は阪南大学教授の森下信雄氏は『宝塚歌劇団の経営学』(東洋経済新報社)で次のように述べています。

顧客(ファン)は同じ組の一定の環境下で成長していく生徒と伴走しながら楽しむのがタカラヅカ流である。そして、宝塚歌劇はいわゆる「スターシステム」を採用しているため、基本的にキャスティングにおける「大抜擢」は存在しない。

このシステムのおかげで、ファンサイドとしては長年支援してきた金銭的、時間的な様々なコストが無駄になる可能性(サンクコスト化)が低くなり、安心感を持ってタカラヅカへの投資を継続できる仕組みになっている。(中略)

宝塚大劇場、兵庫県宝塚市
宝塚大劇場、兵庫県宝塚市(写真=663highland/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons

「推し」のために劇場に通う熱心なファンたち

こうした宝塚歌劇ならではの強力な販売チャネルが「ファンクラブ」(ファン会)です。タカラヅカの私設ファンクラブの実態は、以下の論文にも詳述されています。

制度的叡智による価値共創:宝塚歌劇団と私設ファンクラブにおける、一見非合理な制度」(遠藤麻衣氏、海部由莉氏、樋口玲央氏、松岡映里氏の共著)

私設ファンクラブは、(中略)非公式といっても、生徒名義でチケットを取る権利や劇場前で人垣を作る権利など、実際は多くのことが宝塚歌劇団から公然に認められている。(中略)

私設ファンクラブで力を合わせ、チケットを買いとることによって、応援する生徒をより上に押し上げようと努力している。そのためファンは同じ作品でも何度も足を運び、例え作品に興味がなくても生徒のためを思い、足を運ぶ。(中略)

ファン自身にも劇場に何度も足を運ぶメリットがある。それは足を運ぶほど良い席を配当されるようになることだ。それにより、ファンの熱はさらに高まる。(中略)

自分たちの応援が生徒の「路線」街道入りに確実に繋がっているという保証もない。このような不条理とも思える状況にファンが不満を持てば、ファンが宝塚歌劇団から離れてしまう可能性があると言える。