平安時代の権力争いはどのようなものだったのか。芸能界きっての歴史通で『松村邦洋まさかの「光る君へ」を語る』(プレジデント社)の著者でもある松村邦洋さんは「貴族らは自分の娘と天皇に男の子を産ませるために必死だった。天皇を魅了する品格や教養を身に付けるため、紫式部や清少納言も参加した『文化人サロン』があったほどだ」という――。
源氏物語絵巻
源氏物語絵巻[画像=『源氏物語絵巻』/京都御所/PD-Art (PD-Japan)/Wikimedia Commons

藤原北家の内部で始まった権力争い

「光る君へ」は、恋愛ドラマの大御所である大石静さんの手掛けるストーリーがすごく魅力のあるものになっていますね。「お見事です!」というほかありません。ですが、ドラマのように、紫式部(=まひろ、吉高由里子さん)と後の最高権力者・藤原道長(柄本佑さん)が昔から知り合いだったという記録は実は残っていないんです。

1年間続くドラマの中では、主人公であるまひろよりも道長のほうが前面に出てくることもあると思います。一昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(2022年)や同じ時代を扱った「草燃える」(1979年)でも、北条義時とその姉の政子がダブル主人公のように交互に前面に出てきました。それと似たパターンでしょうか。

大河ドラマでも初めて取り上げる時代ですから、この時代の歴史に詳しい人は専門家以外にあまりおられないかもしれませんが、藤原氏、その中でも特に藤原北家が朝廷の中で権力を握ったけれど、その北家の中での争いが始まるということは、前回の記事で触れました。

ドラマでは道長は「三男」として描かれている

その北家の面々はというと、まず道長の父、藤原兼家(段田安則さん)。藤原北家の中で当初は三男坊のマイナーな存在でしたが、兄弟どうしの激しい抗争を勝ち上がり、やがて摂政・関白・太政大臣の座を手に入れます。

頂点に立った頃の兼家は、自分の荘園などから、今で言えば年収3億~5億円の収入を得て、120メートル四方の敷地に建った寝殿造の大豪邸――数十億円相当――に住んでいたそうです。当時の庶民が何百年働いても買えない金額でした。

その兼家の子は男女合わせて10人いたと言われます。道長は五男ですが、正室の時姫(三石琴乃さん)が生んだ男の子は道隆(井浦新さん)、道兼(玉置玲央さん)と道長。「光る君へ」は、このくくりで道長を“三男”として扱っていますね。兼家の後釜を狙うライバルは北家以外の藤原氏に何人もいましたが、この道隆、道兼、道長の三兄弟とその息子、娘たちがドロドロの権力闘争の中心となるわけです。