複雑な人物設定

『ハリー・ポッター』にはさまざまなアイテムが出てくる。みぞの鏡や、ポリジュース、透明のマント、逆転時計などがあり、魔法と直接結びつくものが多い。

またモンスターや魔法動物としては、三頭犬、吸魂鬼、死喰人などであるが、アイテム、魔法、モンスター、魔法動物は、他の神話やおとぎ話と似ているものが多く、オリジナリティーに富んでいるとは言えない。

特徴があるとすれば、魔法の杖がそれぞれのキャラクターごとに割り当てられていて、杖の能力に差があることである。

人物キャラクターは複雑である。家系がすべて魔法使いの「純血」、人間は「マグル」、家系にマグルがいる「半純血」、親が魔法使いなのに魔法の力がない「スクイブ」など。

そしてハーマイオニーのように両親がマグルでも魔法使いが生まれたりするので、何がなんだかわからなくなる。

これらのバックボーンで、さまざまなキャラクターが登場する。ダンブルドア(校長)、スネイプ、ミネルバ(教師)、ハグリッド(ハリーらの守護者)、マルフォイ(同級生)などがこの映画を彩る。

ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッターのホグワーツ城
写真=iStock.com/Filmcameraaddict
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現実と魔法世界の境界線はあいまい

『ハリー・ポッター』でもっとも特徴的なのは世界観である。この世界観は『ハリー・ポッター』の中で歯止めが利かないほど増殖し、さまざまな場所があるが、設定がかなり曖昧である。

ハリーがホグワーツに行くのは、現実世界にあるキングス・クロスロンドン駅9と3分の4番線から発車するホグワーツ特急だから、それでしか行けないかと思うとそうではない。

2作目「ハリー・ポッターと秘密の部屋」では空飛ぶ車「フォード・アングリア」でホグワーツに行く。また3作目などに登場する「夜の騎士バス」は、どこからともなく現れ、魔法使いを迎えにくる。

現実世界にあるパブ「漏れ鍋」も魔法界の商店街「ダイアゴン横丁」への入り口なのだが、その他にも魔法世界への入り口はいっぱい出てくる。正直なところ、どこが現実世界でどこからが魔法世界かよくわからなくなる。

【図表】『ハリー・ポッター』の世界設定
筆者作成

『ロード・オブ・ザ・リング』との違い

映画のストーリーは、出来事や時系列、設定を厳密に照らし合わせると、ほとんどの映画は破綻していると言っていい。それであっても、登場人物の感情の吐露や、展開の面白さなど何かしらその破綻を凌駕するパワーがあれば、その映画は成立してしまうし、傑作にもなる。

『ハリー・ポッター』はハイブリッド型であるが、作品を追うごとにハリーvs.ヴォルデモートの大河ロマン風の戦いがメインストーリーになり、それが大きくなりすぎて、ハリー、ロン、ハーマイオニーをはじめとする登場人物が活躍するサイドストーリーや個々のキャラクターによるエピソードがすべて目立たなくなってしまっている。

先ほど述べたハイブリッド型が必ずしも優れていると言えない理由はここにある。

『ロード・オブ・ザ・リング』と比較してみよう。メインストーリーは指輪をオロドルイン火山に葬り去ることを軸とした叙事詩ファンタジーである。誰が指輪を持つかを決定する「オロドルインの会議」までは指輪が強調されるが、それ以降は、登場人物同士が織りなすエピソードを中心にしてストーリーは進行する。