KSLが取材に訪れると、以前の成功は見る影もなかったという。ソーダの空き瓶やタバコの吸殻に囲まれ、汚れた発泡スチロールのマットレスの上に横たわる男の姿がそこにはあった。

人生の転機について男性は口を濁すが、妻との不和をほのめかした。子供たちが大学へ行くのを見届けると、荷物をまとめてこのトンネルへやって来たという。

デイリー・メール紙は、トンネル暮らしを続ける中年夫婦の例を報じている。まだ赤ん坊だった息子を亡くし、さらには家を失うという不幸が続いたあと、夫はヘロインに手を出した。中毒となり、こんどは職まで失った。

収入が途絶えると、夫婦揃ってトンネルに足を踏み入れたという。今は麻薬とは手を切り、二人は地上のカジノを訪れては「クレジット・ハスリング」をして日銭を稼ぐ。スロットマシンを1台1台めぐり、取り忘れたまま放置された小銭を見つけると、それが二人の収入だ。地下に追いやられた人々の、厳しい生き様を物語る。

地下道トンネルに座り込み、寒そうにしている男性はステンレスマグを手にしている
写真=iStock.com/South_agency
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身分証がないから抜け出せない…地下世界で続く不運のループ

米著名YouTuberのブランドン・バッキンガム氏(登録者52万人)は昨年、トンネルで暮らす5組ほどの人々にインタビューを実施した。カージャックの被害に遭い、片目の視力と嗅覚を失ったという47歳男性は、もう13年間以上もトンネルで暮らしている。水かさが増しても居住エリアに水が入り込まぬよう、40時間ほどかけて盛り土を作るなど、厳しいトンネルの環境で安全に暮らせるよう心を砕く。

13年間会っていない娘を除き、家族は「みんな亡くなってしまった」と男性は言う。トンネルでの生活を尋ねられると、洪水で持ち物がすべて流されることもしばしばで、「残酷」だと答えた。あるとき、切り刻まれた死体の残骸が土の中に埋もれているのを見たことさえあるという。

トンネルを出て生き方を変えたい男性だが、最大の障害は身分証をなくしてしまったことだ。社会保障カードや出生証明書など、身分証を取得するために必要な書類はすべて流された。身分証なしでは娼婦をのぞき、ラスベガスで仕事を得ることはほぼ不可能だという。

地下暮らしが2~3年ほどになるという女性は、洪水に見舞われるラスベガスのトンネル網が「世界で3番目か4番目に危険なトンネル」とされていることを認める。トンネルの奥深くで、水に阻まれ行き場をなくした人々が死亡していると知りつつも、それでもトンネルを離れない。惚れた男を追ってトンネルに行き着き、酒とギャンブルに溺れる日々がいつしか始まっていたという。