「誰が勝ってもお祝いしよう」

男性はさらに、こう付け加えた。「2000年頃は、支持政党が違うだけで口論やケンカになり、互いに相手を受け入れることができませんでした。しかし、今は違います。私たちは政治思想の違いを尊重できるようになりました。結果がもし違ってもそれは民意。私たちは翌日からその国民の総意に従って正しい道を模索するのです。私たちの1票が新しい台湾の民主主義を作るのです」。筆者は通訳しながら、感動で目頭が熱くなったものだ。

今回の選挙では、第3勢力の民衆党も若年層を中心にかなりの支持を広げた。26歳の民進党応援集会に来た女性に話を聞くと、「友達の多くは民衆党支持。国民党から民衆党になった友達や、民進党から民衆党になった友達も多かった」という。彼女自身は、「みんなで民進党、国民党、民衆党の良いところ悪いところを話し合ったけど、わたしの心は動かなかったからここに来ているの」と語っていた。「台湾人同士の政治話は御法度」という伝統にも、変化の兆しはあるようだ。

投票日に話を聞いた52歳のタクシードライバーの女性は、国民党に投票したと答えてくれた。しかし、旦那さんは民進党、20代の息子と娘は民衆党支持だとも教えてくれた。彼女は娘から民衆党への投票を説得され、何度も話し合いをしたそうだ。しかし、彼女は「娘の話を聞いたけど、心が動かなかった。最後はお互いの好きなところに投票しよう。そして誰が勝ってもお祝いしよう」と話し合ったそうだ。

こうした話を聞いて、筆者は自由な民主主義が台湾にしっかり根付いていることを確認できた思いがした。家族や友人の間で活発な政治討論がされはじめたのは特に大きな変化であり、日本では考えられないことかもしれない。

選挙当日の政治家のメッセージも一味違う

台湾は投票日の0時から投票が終わる午後4時まで、一切の政治活動が停止される。前の晩に行われた応援集会の映像や政治家を取り上げる報道は、テレビでは放映されない。唯一、新聞紙面でその内容が報道されているのみである。

蔡英文総統や各主要候補者・主要政治家の投票風景はテレビのニュースでも取り上げられ、投票後にインタビューに答える姿が映される。しかしその回答も、政治活動停止時間帯であることを踏まえ、自党を含む特定の政党への応援と捉えられる発言は控えられている。