3月の選抜高校野球大会から、打球の飛距離が抑えられる「低反発バット」が導入される。スポーツライターの内田勝治さんは「高価な低反発バットが基準になれば、ますます野球は金銭的負担の重いスポーツになる。若者の野球離れに拍車がかかるのではないか」という――。

ボールとバットだけで野球ができる時代ではない

昭和の時代。野球は庶民的なスポーツだった。長嶋茂雄に憧れた野球少年が数人集まれば、公園や学校、稲刈りを終えた田んぼなどが即興のスタジアムになる。

「おーい磯野、野球やろうぜ!」。国民的アニメ『サザエさん』に登場する中島くんは、グラブの間にバットを通した姿でカツオの前に現れ、公園へと誘う。2人いれば十分。キャッチボールもできるし、投手と打者で対決だってできる。そんな子どもたちの姿が、あらゆる場所で見られた。

筆者撮影
昨年8月に行われた中学硬式野球の「ジャイアンツカップ」で、低反発バットが試験的に導入された

令和の時代。野球はとかく何かとお金のかかるスポーツになった。以前なら3~4万円で買えた硬式用グラブは5万円をゆうに超え、オーダーともなれば6~8万円はかかる。少年野球は素手でバットを振るのが当たり前だったが、今では手袋を使用。強烈な太陽光線から目を保護する目的で、サングラスを着用する選手もちらほら目につく。

打撃のインパクト時にかかる手首への衝撃を抑制するリストガードや、死球や自打球から身を守るエルボーガード、レガースなど、使用する用具も増えた。物価高の影響もあり、帽子や上下ユニホーム、アンダーシャツ、ソックス、ストッキングなど、消耗品も軒並み値上がりしている。

高価な「低反発バット」の配布は「1校3本」だけ

バットも高額だ。高校野球では今年3月のセンバツから新基準の低反発バットが導入される。反発係数を低くして打球速度を抑えることで、投手の怪我や、乱打戦による肩肘の消耗を防ぐなど、圧倒的な打者有利を改善するのが狙いだ。

日本高校野球連盟(高野連)は昨年11月、希望した全国の加盟校3814校に2本ずつ、計7628本を、各都道府県の高野連を通じて配布した。しかし、価格が従来の金属バットより1万円以上も高く、中には4万円近いものもあるため、経済的な負担を懸念する声が続出。12月に追加でもう1本ずつ配布することを決めた。

ただ、金属バットも消耗品。3本のみでは当然足りるはずもなく、不足分はチームで補うことになる。お金がある私立校ならまだしも、部費が限られる公立校が数十本も買いそろえるのは難しい。そうなると個人のポケットマネーに影響が及ぶ。せめて旧基準のバットを下取りに出せば割引で買えるなどの措置があってもいいように思えるが、現時点でそういったアナウンスは聞こえてこない。