批判はきわめて政治的な動機によりなされる

これらの問題に加えて、過去には突発的に起こるテックラッシュもあった。消費者の意向を踏まえずにアレクサにより音声が勝手に記録されているのではないか、政治的なメッセージの入ったTシャツなどの商品を販売しているのは問題ではないか、テロ行為がツイッチ(アマゾンの子会社)によるライブストリーミング配信で拡散されているのではないかなど。

加えて、コロナ禍を経て、アマゾンは人々の生活になくてはならない存在であると認識されながらも、COVID-19の勝者、つまり危機から恩恵を得た者として厳しい目が向けられ、第一線で働いてきた労働者の待遇や賃金を改善するとともに、財政再建や景気回復にも貢献するよう求める声が強まっていった。繰り返すが、テックラッシュによる批判には事実に基づかないものも多いのであるが、きわめて政治的な動機によりなされるものなのである。

段ボール箱を持っている配達員
写真=iStock.com/Olga Aleksandrova
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欧州の場合、政治家や官僚が面談に応じてくれないことも

このようなテックラッシュの逆風の中では、公共政策チームが個別の政策課題に特化したロビイングを行うことは容易ではない。(本書で)後述するように、日本では個別の政策課題について政治家や官僚に面談を申し込んだ場合、不合理な理由で断られるということはあり得ない。

一方、欧州の場合には、そもそもアマゾンにまとわりついている誤解や悪評を取り除かないことには、個別の政策課題について面談にすら応じてもらえないという現象も起こっていた。そうであれば必然的に欧州の公共政策チームは、まずはアマゾンの評判を回復することから仕事を始めざるを得ないことになり、例えば、アマゾンがいかに欧州各国の中小企業支援を行っているのかを示すための”徳を積む”キャンペーンを行うことになる。実際、欧州の公共政策チームにはこのようなキャンペーンを率いる専任の社員が存在する。

欧州のことを強調して述べてきたが、テックラッシュは世界的な現象になりつつあった。米国が自国第一主義のアプローチをとったことで、間接的に他国にも同様の行動をとることを許してしまったというマクロ的なトレンドもテックラッシュを引き起こした要因であろうと思われる。