怒っているときにいい判断はできない

これらはすべて、本質的でシンプルな判断を可能にするために、自分をリセットする手段です。

それでもニュートラルになれないときもあります。たとえば、何かにすごく怒っていたり、疲れていたりという場面です。そういうニュートラルじゃないときには、結論は出さないことが大切です。

お酒を飲みながら出す結論なんて、ろくなものではありません。会食で何か約束するのもやめておきましょう。盛り上がって意気投合するまでにして、実際に結論を出すのは、ニュートラルな状態になるまで待ったほうがいい。

また、「今すぐ決めてください」と迫られると「それはおどしだから無理」と僕なんかは言いたくなります。決断は即座に出すべきだと思うけれど、それはあくまでも自発的な行為でありたい。相手から迫られた決断には、インスピレーションが働きにくいものです。

決断は自分自身の余白の中で、自分が主体のタイミングで行うことが大切です。

他人に任せるときの許容範囲を決めておく

経営者として、そして他人に仕事をまかせる立場の人間として、僕が決めているポリシーがあります。

それは、

・ 常に最高のパフォーマンスを求めること。

その一方、

・ 最低の場合を想定してリスクヘッジをしておくこと。

この両方を同時に持つことが重要で、これができないとマネジメントはうまくいきません。最高のケースだけしか考えないのはさすがに楽観的すぎますし、最低の場合のヘッジばかりしているのでは進歩もイノベーションも起こらない。それではまったく面白くありません。

この二つを両極端に「張る」のが、決断の鉄則です。どこまでその距離を広げられるか。ここが、その人の器うつわが問われる部分です。

最高と最低を同時に視野に入れる。そしてその間は余白として曖昧に、他者が介在できる領域にしておく。経営の場面に限らず、あらゆる決断において、とても重要です。

最高と最低のラインを決めると、当然、すべての決定はこの範囲の中で行われることになります。これは、舞台の右の袖から左の袖までの長さと奥行き、そして天井の高さまでが決まった、ということ。その舞台から外れさえしなければ、好きなように行動していいよ、と舞台に立った人たちに決定権をゆだねることができます。

イエローのスポットライトに照らされたステージ
写真=iStock.com/RuslanShevchenko
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