ChatGPTをはじめとする生成AIは人間の仕事にどんな影響があるのか。国立情報学研究所の佐藤一郎教授は「一挙に大量失業者が生まれるとは考えにくい。世間は生成AIに対し期待を持ちすぎている」という――。(第1回/全2回)
国立情報学研究所の佐藤一郎教授
写真=プレジデントオンライン編集部撮影

ChatGPTによって大量失業者が一気に出ることはない

「これからのAI時代、AIに淘汰される職業、生き残れる職業は何ですか」

ChatGPTのサービス開始から1年の間に、こうした質問を受ける機会が何度もありました。

これまでに起きてきたテクノロジーの進化を見れば、ある特定の仕事が時間をかけて徐々に先細りになることはあっても、一気に大量失業を招いたことはありません。登場したテクノロジーがAIであっても、それは同じことです。

そのため多くの人は「私の仕事もなくなるかもしれない」などと心配する必要はないのですが、ChatGPTが生成する文章の質の高さと、これまでの技術やサービスに比べて一気に多くの人が実際に使ってその質の高さを実感できたことが、一方では「AIにとってかわられる」という危機感を生んだのだろうと思います。

こうした危機感の根底には、世界史で習ったラッダイト運動のイメージがあるのではないでしょうか。

機械を破壊するラッダイト
機械を破壊するラッダイト(写真=Chris Sunde/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

多くの人が、ラッダイト運動を「19世紀の産業革命期に起きた、工業化、機械化が進む過程で仕事が機械にとってかわられることを恐れた労働者たちが、これに反発して機械を打ち壊した運動」と認識していると思います。

だからこそ、AIの隆盛で仕事をとってかわられるのではないかという「ネオ・ラッダイト運動」とも言うべき危機感が人々に浸透しているのかもしれません。

いつ人類は自動車の運転から解放されるのか

しかし実際には、ラッダイト運動を起こした労働者たちは機械にとってかわられることを恐れたのではなく、産業革命によって問題が顕在化してきた児童労働や、長時間労働・低賃金などの労働問題に対する抗議活動を行ったのです。

機械を敵視したのではなく、抗議の活動の一環として工場の機械を破壊したにすぎない、というのが実態なのです。

確かにこれまでにも、技術の進歩によってある職業が消える・その職業に就く人が減少することはありました。よく例えに出すのは、自動車の発明と普及によってほとんど姿を消した馬車の仕事です。

自動車がこれから普及し、輸送力も速度も高まることが確実視される世の中になった時点で、若い世代では馬車の仕事を選ぶ人は減っていったとみるべきでしょう。

もちろん、かつての自動車普及の速度は今のAIの普及よりも格段に遅く、自動車が馬車にとってかわるまでには相応の時間がかかりました。一方、現在はテクノロジーの進歩や普及と、それに伴う労働移動の速度が上がっています。

そのため、ある職業が「将来的にAIにとってかわられる可能性」が指摘されると、一体どのくらいの世代までが逃げ切れるのかという感覚になってしまうのも無理はないのかもしれません。