テレビ局スタッフに起きた変化

――五十嵐さんご自身にとっても意外な展開でしたか?

【五十嵐】そうですね。まさかこんなにWBCが盛り上がり、大谷選手がこれほど注目されるとは思っていませんでしたから。

その意味でも世の中の人が野球の面白さを知るきっかけが大谷選手だったと言えます。

WBCがはじまった頃、解説者に求められたのは、WBCという大会について、試合の展望、あるいは日本チームや対戦チームの情報など初歩的な話でした。

それが、徐々に大谷選手のピッチング内容や、いまのコンディションについて聞かれたり、試合のポイントなど踏み込んだ内容について質問されたりするようになりました。

毎日のようにテレビ出演を続けていて面白いなと思ったのは、制作スタッフがだんだん野球に詳しくなっていくこと。

たとえば、大谷選手の持ち玉にスイーパーという横に大きく曲がる変化球があります。野球に詳しくもない人に突然、スイーパーなんて言っても分かるわけがない。

でもあるお昼の情報番組から、視聴者が大谷選手の投げるボールに関心を持っているからスイーパーを取り上げたいと。そこでぼくは、スイーパーはどんなふうに曲がるのか、投球の際どんなスピンをかけるのか、これまでなかった球種がなぜスイーパーと呼ばれるに至ったか……詳しく説明しました。

「スイーパー」を知りたい視聴者

【五十嵐】またあるときは、メジャーのシーズンがはじまってすぐ大谷選手に対する打撃妨害が増えました。バッターとして打席でスイングすると相手のキャッチャーミットにバットが当たってしまう。番組で解説を求められたので、プロのバッターに教えてもらったことを説明しました。

ただしあまりに内容が専門的だったので、これでいいのかなと不安も感じていました。情報番組の視聴者の方は、主婦や高齢者の方が多いと聞きます。スイーパーや打撃妨害に興味があるのだろうか、と。でも視聴者の反応がよかったので、頻繁に野球を取り上げるようになったのでしょう。

専門的な解説を続けていくうちに実感するようになったんです。野球を詳しく知りたいと思っている人たちが増えたんだな、と。

野球に興味を持っていただけるのはプロ野球のOBとして純粋にうれしかった。同時に大谷選手というスーパースターが現れたからこそ、いままでにないほど野球に注目が集まった。大谷選手の影響力の大きさを強く感じました。