徳川秀忠の娘・千姫はどんな人物だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「生後1年で秀頼と婚約させられ、秀頼の死亡後は家康の重臣に嫁がされた。権力に振り回され、幸せとはいいがたい人生だった」という――。

家康の孫で秀頼の妻だった千姫の苦しみ

NHK大河ドラマ「どうする家康」では、徳川家康(松本潤)の孫、すなわち嫡男の秀忠(森崎ウィン)の長女で、豊臣秀頼(作間龍斗)に嫁いだ千姫(原菜乃華)の境遇に同情が集まっている。とくに第46回「大坂の陣」(12月3日放送)は、彼女が気の毒な場面が目白押しだった。

FIVBパリ五輪予選・ワールドカップバレー2023の特番ナレーションを務めた女優・原菜乃華(=2023年9月20日、東京国立代々木競技場)
写真=時事通信フォト
「どうする家康」で千役を演じる女優・原菜乃華。FIVBパリ五輪予選・ワールドカップバレー2023の特番ナレーションを務めた(=2023年9月20日、東京国立代々木競技場)

ずっと不安な面持ちの千に、夫の秀頼は「余は徳川から天下を取り戻さねばならぬ」と意志を伝える。千は「あなた様は本当に戦をしたいのですか? 本当のお気持ちですか?」と問いかけるが、「余は、豊臣秀頼なのじゃ」というのが夫の回答だった。そのことを理解しながらも、同時に実家の徳川を案じる千。

大坂城に集まった、関ヶ原合戦における西軍の敗将ら歴戦のつわものを前にしては、義母(血縁上の叔母でもある)の茶々(北川景子)から、「お千や、そなたも豊臣の家妻としてみなを鼓舞せよ」とうながされ、複雑な気持ちのまま「豊臣のために、励んでおくれ!」と声を張り上げたが、一同が気勢を上げるなか、千だけは苦しみは悲しみを押し殺した表情をしている。

視聴者の同情を買うのも当然という場面の連続だった。実際、史実の千もきわめて気の毒な立場におり、凄惨せいさんな場面も経験した。それを具体的に記したいが、その前に、千をめぐる状況に関する「どうする家康」の描写について、史実と異なる点を指摘しておきたい。

大坂城攻めで最も効果的だった武器

大坂冬の陣において、大坂城の周囲で繰り広げられた攻防戦では、徳川方に甚大な被害が出た。広壮かつ堅固で、さらには城下町を囲む壮大な総構(外郭)を備えた大坂城がいかに難攻不落であるか、実地で見せつけられる格好になったのだ。

そこで家康がもちいたのが大筒だった。家康は大坂城を攻めるのが困難であることを予想して、多数の大筒を用意していた。

当時の大筒は鉄の弾丸を飛ばすだけだったので、野戦ではあまり効果が発揮されなかったが、大きくて動かない標的をねらう攻城戦では効果が期待できた。大坂城は広大だが、北西方向は外堀(淀川が外堀に見立てられていた)から本丸までの距離が短かったため、家康は淀川の中州の備前島に大筒を配備させた。この合戦のために300挺が準備されたというが、射程距離が長くて威力があるいわゆる「石火矢」は5門だったという。

そして昼夜問わず、連日砲撃を加えて威嚇することで和議に持ち込んだ。このとき砲弾が天守の柱に命中して天守が傾き、茶々の居間も破壊され、茶々の侍女数人が即死したとされる。