重要なのは動物と飼い主さんのQOL

「今回お聞きした内容だけからすると、適切なインフォームドコンセントが行われたか疑問に感じます。」

動物の虐待や安楽死の問題に詳しい帝京科学大学の佐伯潤教授は、いぶかし気に語った。

「動物の現在の状態を踏まえて、必要な検査や治療について選択肢を示し、それぞれのメリットとデメリットも説明し、飼い主さんと話し合い、理解を得ながら、個々の症例で最良と思われる治療方針を選択していく必要があります。

特に深刻な病状の動物では、重要なのは動物のQOL(クオリティーオブライフ:生活の質)についてしっかり考えることです。そして、もう1つ重要なのが飼い主さんのQOLです。経済面でも生活面でも、飼い主さんができる範囲であることが大事で、飼い主さんの生活が犠牲となり、破綻してしまっては意味がありません。末期のペットの看護は大変です。終日面倒がみられる時間と体力があって、十分な治療費がかけられて、治療後2年3年生きられるだけでも構わないという飼い主さんは多くはないはずです」

従来までの日本の獣医学教育では、先端の獣医療の教育は行われてきたが、インフォームドコンセントやQOL等、倫理的な課題についての教育は十分に行われているとはいえないのも問題という。

「インフォームドコンセントとは『説明と同意』という意味ですが、一方的に説明して、同意書をもらえば問題はないと誤解されている場合も少なくありません。本来の目的は、飼い主さんの自己決定権を支援することですので、獣医師が一方的に1つの治療方針を示すのではなく、複数の選択肢を示すことが重要です。

その中では、メリットとデメリットおよび、起こり得る状態についてしっかり説明した上で、積極的な治療を行わないという選択肢や、病状や経過によっては、安楽死も含まれるべきです。安楽死は獣医師に認められた最後の治療法でもあります。

また、適切なインフォームドコンセントにおいては、専門職として獣医師の責任も重要ですが、飼い主さん自身も、獣医師の説明を真摯に聞き、疑問があれば質問したり調べるなどして、自らの希望を獣医師に伝えるなど、主体的に考える義務があります。獣医療では、飼い主さんは、治療者側でもあるとも言えるのです」

波打ち際に犬の足跡
写真=iStock.com/Elena Koroleva
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「飼い主が何を大事にしているか」を把握する

膀胱がんの検査にCTを使うことは適切ではあるが、その前に、飼い主の希望も聞き、尿中の細胞の検査等、の体の負担や飼い主さんの費用負担の少ない検査を行うのが一般的だ。

また治療方法についても、飼い主が何を大事にしているかを把握し、外科手術以外の複数の選択肢を示すことも重要である。冒頭の獣医師は、検査法も紹介先の病院も一択しか提示しなかったし、病気が今後どのように進行するか等の説明もしなかった。これでは飼い主は、どう判断したらよいか分からない状況に置かれてしまう。