定年後は「晴耕雨読」「悠々自適」……。そんな夢を打ち砕くのが「リストラ」だ。現在、リストラは実際どのように行われているのか。そしてリストラに遭ったら、老後をどう過ごせばいいのだろうか。

団体交渉が始まった。

昨年秋に労働組合ユニオンに入った大槻隆さん(仮名・52歳)は、この瞬間を待った。目の前にいるのは半年間にわたり、自分に屈辱的な思いを強いてきた会社の、人事の責任者だ。

「こんなあいまいな理由でうちの組合員のリストラをするならば、おまえが辞めるべきだ!」

隣に座るユニオンの役員が、太い声で追及する。大槻さんも言いたいことがあったが、ぐっとこらえた。口にすれば、激しい応酬になり、話し合いにならないと思った。

テーブルを隔てたすぐ前には、人事部長や会社の顧問弁護士ら数人が座る。部長は「彼は、上司のサポートをしなかった」「部下の育成をしていない」と淡々と答えていく。

それらは、大槻さんには身に覚えのないことだった。そのときに悟った。

「会社では、もう自分を辞めさせるという結論が出来上がっている。人事部長はそれを裏付ける理由をもっともらしく話しているだけだ」

会社は、業界で上位に位置する大手メーカー。正社員として30年近く勤務し、60歳の定年まで残り10年を切った。そのころから、勤務する営業部でリストラが始まった。40~50代の部員が毎年、数人ずつ退職するように仕向けられていった。ストレスからなのか、自殺する社員もいた。