心に余裕がなくなってきたときは、気持ちが安らぐ時間をつくることが大切です。私がこれまでにお会いした優秀な企業家や財界人の多くは、そのひと息の時間によく茶道をたしなんでいらっしゃいました。

私の父にお茶を習われていた松下幸之助さんは、どんなに忙しくても、欠かさずにご自分でお茶を点て、客人にふるまっていました。そんな心の余裕があったからこそ大きな仕事を成し遂げることができたのでしょう。

ところが最近の方々は、私が「お茶を一服いかがですか?」と申し上げても、皆さん口々に「忙しいので、また次の機会に」とおっしゃるのです。本当に残念なことです。時間といっても10分もかかりません。「お茶の作法はわかりませんが、ぜひいただきます」とおっしゃるくらいの気持ちの余裕を持っていただきたいのです。

海外にビジネスで行かれた際に、もしお茶を点てることができたら、それは立派な外交となります。お茶を点てるのはそれほど難しいことではありません。器と茶筅とお抹茶、お湯があれば誰にでも点てることができます。金平糖などの干菓子を添え、野に咲いている花を一輪さりげなく活ければ瞬く間に雰囲気が変わり、「日本人、日本の文化はすばらしい」と口々におっしゃいます。

ほんの10分ほどのことで、その効果はきっと100倍にも1000倍にもなって返ってくるものです。日本人としてのプライドや誇りを持つこともまた、余裕のバロメーターになるのではないでしょうか。

「いつでも辞めてやる!」。そんな思いで仕事をされている方はいらっしゃいませんか? 私は、どんな仕事もすべて天から与えられた天職と思うべきだと考えています。仕事は単なるビジネスではありません。

キリスト教社会では、「Service above self」 という言葉がよく出てきます。「自己心を超越した奉仕」という意味です。仕事とは単に利益を挙げることのみが目的ではなく、自分のやっていることが人に喜びを与え、社会に還元されるものだと考えてみてください。そこにやりがいを感じ取っていただきたいのです。

偉人として後世に名を残した人のなかで、一攫千金を狙った人はひとりもいらっしゃいません。まじめにコツコツと努力を積み上げた人たちであることを忘れないでほしいのです。