「酒は百薬の長」と言われてきたが、どれだけの飲酒なら健康にいいのか。「酒ジャーナリスト」の葉石かおりさんは「最近の研究では、少量の飲酒でも病気やがんのリスクを高めるという結果が出ている。心疾患や脳梗塞、糖尿病などは、少量の飲酒であれば死亡リスクを低下させるが、トータルで考えれば飲酒量はゼロのほうがいい」という――。

※本稿は、葉石かおり『生涯お酒を楽しむ「操酒」のすすめ』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。

居酒屋での乾杯
写真=iStock.com/taka4332
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「ちょっと飲む人」のほうが、死亡リスクが低い?

Q 「酒は百薬の長」……じゃないって本当?

A 昔から、「酒は百薬の長」といわれてきましたが、どうやらそれは正しくないようです。少量の飲酒でも病気やがんのリスクを高めるという、お酒好きにとっては衝撃的な事実が明らかになりました。

「酒は百薬の長」というフレーズは、お酒好きの弁解の定番。これを裏付けるのが「Jカーブ効果」です。1日平均純アルコール換算での消費量が、男性なら20g程度、女性なら9g程度までであれば、まったくお酒を飲まない人よりも死亡リスクが減るという海外の調査機関によるデータ(図表1)で、グラフの形状が「J」の字に似ていることからJカーブといわれています。

「百薬の長」になるのは一部の疾患に対してだけ

日本でも、40~69歳の男女約11万人を9~11年間追跡したコホート調査の結果、総死亡率では1日平均純アルコール23g未満で最も死亡リスクが低くなることがわかっています。

厚生労働省が2000年に発表した「健康日本21(第一次)」の中で、「節度ある適度な飲酒」と明記されていますが、これら国内外のデータがその根拠となっています。

Jカーブはお酒好きたち(私を含め)にとっては、飲酒をする際の安心材料となるありがたいデータとして知られてきましたが、疾患別に見ると、どうやらすべての疾患においてこの法則が当てはまるとはいえないことがわかっています。

心疾患や脳梗塞、糖尿病などの病気については、確かに少量の飲酒によって死亡リスクが低下する傾向が確認されていますが、高血圧や脂質異常症、脳出血、乳がんなど、飲酒量が増えると少量であってもリスクが着実に上がる病気も多くあるのです。

心疾患や脳梗塞、糖尿病の罹患りかん者数のほうが圧倒的に多いため、トータルとしてグラフがJカーブを描いているにすぎなかったというのが真相のようです。