メンタルヘルスに良い食習慣はあるのか。産業医の武神健之さんは「私が面談してきたなかで、食生活の変化がメンタル不調からの改善になったと感じられた人たちはいる。だが、メンタルヘルスへの食事や栄養の活用については、まだエビデンスが不十分なのが現状だ」という――。
動揺して座り込んでいる男性
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こだわりすぎて心身の調子を崩す人もいる

こんにちは。産業医の武神です。近年、食生活がカラダの健康に影響していることが、さまざまな研究で報告されています。その中でも、食事のカロリーコントロールが、さまざまな病気リスクを軽減することは誰もが認める“常識”となっています。

では、ココロの健康(メンタルヘルス)に関しては、どのような食生活がいいのでしょうか。今回はこのことについて考えたいと思います。

私の認識では、現在エビデンスがあり世の中に受け入れられている健康のための食事習慣は、1日の摂取すべきカロリー内で食べること、3大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)の摂取バランスを意識することの2つでしょう。

私は過去10年以上の産業医面談の中で、食事習慣にこだわりすぎる前にやるべきことがある人や、こだわりすぎて心身の調子を崩す社員がいるのを見てきました。

例えば、ダイエットのために、食事を全てプロテインに変えたけれど3日間で続けられなくなった人や、スポーツジムに入会しキュウリばかり食べていたら職場で倒れて救急車を呼ばれた人。

健康意識が高いがために、有機野菜や無農薬にこだわりすぎて部の送迎会や忘年会幹事から毎年煙たがられている人。白物(白米、白食パン)を否定し茶色物(玄米、麦芽パン等)しか食べなくなり、ランチ友達がいなくなった人など、さまざまな人がいます。

妻のメンタル不調で食習慣が変化した男性

私の産業医経験の中で、実際に食事変化をきっかけに、メンタルヘルス不調になった人やそこから回復したと感じる人たちもいました。回復した事例をご紹介しましょう。

Aさんは40代、未就学の子供2人がいる既婚男性でした。奥様がメンタルヘルス不調になったことをきっかけに、いろいろと家事もやるようになったAさんですが、食事の準備は今まで奥様の担当でした。Aさんは不得意な上、時間がないため、出来合いのものを買う食事習慣になっていました。