空室率と賃料は景気と連動する

「せっかく六本木に来たのに、どっこも行ってないのよ」

ファーストリテイリング(FR)の女性社員は苦笑いする。

同社は10年3月に、九段にあるビルから、港区六本木にあるミッドタウンに引っ越した。なかなか外出できないのは、初めて社員食堂ができたから。

企業が引っ越して、その後に店子が入らなければ、そこは空室になる。実際、リーマンショック以降の大不況で、東京都心の空室率は、過去最高水準にまで跳ね上がっている。不動産仲介大手の三鬼商事によれば、10年2月末の都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の空室率は8.66%。ITバブル崩壊後の2003年8月の8.57%を上回り、1989年の調査開始以来、最高となった。

オフィスビルの空室率と賃料は、景気との連動性が高い。景気がよくなれば、事業が拡大して人員も増え、より広いオフィススペースが必要になる。不況になれば、その逆のことが起こる。

思い起こせば、80年代の後半、バブル景気華やかなりし頃は、東京が世界の金融センターになるとして、外資系金融機関などが次々と進出した。

さらに99年から00年にかけて起こったITバブルでもオフィス需要は急激に高まった。ソフトバンク、ヤフー、USEN、旧ライブドアなどに代表されるITベンチャーが、オフィス需要を牽引したのだ。むろん、バブル崩壊後は、反動で空室率は大きく上昇した。

特に03年は不況に加えて、六本木ヒルズや汐留地区の大型ビルが竣工し、供給も増えたが、「09年、10年は、供給量はそれほど多くない。そのわりには空室率が上昇している。景況感が悪くて企業の需要は縮小一辺倒という状況ですね。体感的には最悪です」(不動産業者)。