痛む右足首に痛み止めを打っての強行出場

手応えを誰よりも感じていたのも、羽生選手本人だった。フリーの演技後の取材で「アクセルはたぶん、いままでの中でいちばん(成功に)近かったと思いますし、いまできる“羽生結弦のアクセルのベスト”があれかなという感じもしています。僕なりの4回転半はできていたのかなって」と納得の表情を浮かべた。

じつは、羽生選手の右足首は、演技前から悲鳴をあげていた。演技直後は「詳しく話すかどうかをすごく悩んでいます。かなりいろいろ、手を加えていただきました。だからこそ、なんとか立てた感じです」と言葉を濁していた。じつは前日の公式練習の4回転アクセルで転倒した際、右足首を捻挫していた。

フィギュアスケーターの足
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そのことを明かしたのは、フリーから4日後の2月14日だった。この日、北京五輪を取材している国内外のメディアからの要望に応じる形で急遽、記者会見が開かれた。

右足首の状態については、このとき初めて、「言い訳になりますが、(フリー)前日の練習で捻挫しました。普通の試合なら棄権していたと思います。いまもドクターから、あと10日は絶対に安静と言われています。それくらい悪かったです。当日朝の公式練習があまりに痛かったので、どうしようかと思いましたけど、6分間練習の10分くらい前に(痛み止めの)注射を打ってもらって、出場することを決めました」と打ち明けた。

「自分の中でも最高のアクセル」

この会見が開かれなければ、羽生選手は右足首を負傷したままフリーを滑ったという事実を心の奥底に閉じ込める覚悟だった。

苦境での挑戦だった4回転アクセルをどう実らせたのか。

「思いきり跳んで、思いきり高いアクセルで、思いきり速く締めることに集中しました。そのジャンプとしての最高点に、僕の中ではたどり着けたと思っています。ショートも悔しくて、ケガをして追い込まれ、注射で痛みを消してもらい、いろんな思いが渦巻いた結果、アドレナリンが出て、自分の中でも最高のアクセルができたと思っています」

五輪連覇を果たし、国民栄誉賞にも輝いた羽生選手が、超大技と苦闘した4年という月日は、「認定」という完成に近い形で結実した。

フリーの演技に時計の針を戻す。

4回転アクセルをこらえることができなかった感覚のない右足首には、もはや余力はほとんど残っていなかった。

続く4回転サルコウでも転倒した。もう右足はとっくに限界を超えていた。