社会的サポートが強いほど炎症レベルが低い

乳がんサバイバーは、健康な人よりも早く危機を察知しますが、これは当然のことです。がんサバイバーは、がんの診断や治療によるトラウマを経験しており、つねにがんの再発を心配しているだろうから、一般の人よりも神経質になっているのです。

炎症と慢性的な闘争・逃走モードのストレスは、がん細胞が増殖する条件をつくり出し、これらの状態は、乳がんサバイバーにおけるがんの再発と死亡のリスク上昇と関連しています。

カリフォルニア大学の研究機関を横断しておこなわれた最近の研究では、研究者たちは、がんにかかったことがない健常者と比較して、乳がんサバイバーの社会的サポート、炎症マーカー、扁桃体の反応(闘争・逃走反応の指標)の関係を評価しようと試みました。

研究者らは、血液サンプル中の炎症マーカーと、被験者に脅威を感じる画像を見せたあとに扁桃体の活動を評価する磁気共鳴機能画像法(fMRI)スキャンの画像に注目。これらの検査後に、被験者は社会的サポートのレベルも自己申告しました。

その結果、乳がんサバイバー群では、脅威を認識したあとに炎症レベルと扁桃体の活動が急激に上昇したのに対し、健常者群では上昇しませんでした。しかし、社会的サポートのレベルが高い乳がんサバイバーは、炎症レベルや扁桃体の反応レベルが低いことが判明。この研究は、がん患者の脳内では闘争・逃走反応を引き起こしやすいため、一般の人々よりも社会的サポートを必要としていることを改めて示しています。

より広い意味では、社会的サポートのレベルが、そもそも病気になるかどうか、あるいはその病気がどの程度重症化するかを決めるのかもしれません。

最近の研究では、社会的サポートと炎症に関する40以上の研究、合計7万3000人以上の被験者を調査し、社会的サポートが強いほど炎症のレベルが低いことが有意に関連していることを発見しました。研究者たちは「炎症は、社会的サポートや社会的統合を病気の発症や経過に結びつける、少なくとも一つの重要な生物学的メカニズムである」と大胆に明言しています。

オハイオ州立大学の別の研究では、心血管疾患の罹患りかん率が高い黒人女性の社会的なつながりと炎症の関連性を調査。研究者たちは、結婚・同棲、教会への出席、ボランティア活動、親しい友人関係など、さまざまな社会的なつながりを持つ24~34歳の若い黒人女性約2000人を調べました。女性たちの炎症を血液検査で測定し、体内の炎症のマーカーとして知られるhs-CRP(高感度C反応性タンパク質)の値が高いかどうかを判定。

研究者たちは、社会的統合の強さと、配偶者や母親といった特定の社会的つながりの質の高さが、炎症レベルの低下と大きく関連していることを発見し、とくにがん罹患率が上昇傾向にある若い黒人女性の健康にとって、社会的サポートの強化が重要であると結論付けています。また、hs-CRPの値が高いことと心血管疾患の相関関係はよく知られていますが、最近の研究ではhs-CRPの高さががんリスクの上昇を示していることが明らかになっています。

傷つきやすさと信頼性

偽ったり、フィルターをかけたり、リハーサルしたものや洗練されたもの、または最高の日だけを見せる……。

ソーシャルメディアで目にする、絵に描いたような完璧な生活に対する反発として、より本物で、傷つきやすく、そして正直であろうとする動きがあります。これは人類にとっていいニュースであるだけでなく、ソーシャルメディアで共有できるいい日があまり多くないかもしれないがん患者にとっても朗報です。

世界的に有名な社会学者であるブレネー・ブラウン博士は、傷つきやすさや勇気、価値観、恥などの深い感情について数十年にわたって研究し、人々にインタビューしてきました。

ブラウン博士のTEDトーク「The Power of Vulnerability(傷つく心の力)」は4000万回以上視聴され、これらのトピックに関するニューヨークタイムズのベストセラーを何冊も執筆。私たちの生活における傷つきやすさと社会とのつながりの必要性について、世界的な会話をはじめたと評価されています。

ケリー・ターナー『がんが自然に治る10の習慣』(プレジデント社)
ケリー・ターナー『がんが自然に治る10の習慣』(プレジデント社)

ブラウン博士は言います。

「つながりは、私たちがここにいる理由です。それは私たちの人生に目的と意味を与えるものであり、『属すこと』は私たちのDNAに組み込まれています。私たちは生物学的、認知的、身体的、そして精神的に、愛し、愛され、帰属するようにできているのです。これらの欲求が満たされないと、私たちは本来の機能を発揮できません。私たちは壊れてしまいます。人々は、あなたが不完全で傷つきやすいにもかかわらずあなたを愛しているのではなく、あなたが不完全で傷つきやすいがゆえに、あなたを愛しているのです」

命を脅かすような診断を受けたあとほど、傷つきやすい時期はないでしょう。ブラウン博士の研究結果は、信頼できる支援ネットワークを構築することの重要性を強調する劇的寛解者からのフィードバックを反映しています。

傷つきやすさが社会的に受け入れられるようになったので、私たちはあなたが傷つきやすくて信頼のおける人たちに囲まれてほしいと願っています。傷つきやすさをオープンにすることは、がんの支援グループでは大きな役割を果たしていて、そのメンバーはありのままで正直であることが、ますます奨励されています。

(翻訳=佐々木加奈子)
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