マツダ会長兼社長兼CEO 
山内 孝氏

トヨタは300万台、日産100万台、マツダ85万台……。自動車各社は国内での年間生産台数を約束している。ただし、事態は変わってきた。マツダは建設中のメキシコ工場からブラジルへの輸出を計画していたが、ブラジル政府がメキシコからブラジルへの輸出に制限をかけた。このため、「日本への逆輸入も視野に入れる。貿易障壁がないのと為替をキーにあらゆる方策を検討する」(山内孝マツダ社長)としている。

また、スズキもすでにハンガリー工場から日本への小型車「スプラッシュ」の逆輸入を始めているが、インドもしくはタイからも「世界的な効率を考え、必要とあれば(小型車の逆輸入を)やる」(鈴木修スズキ会長兼社長)と話す。「生産の海外移転を安易にしてはいけない。国内での技術の伝承ができなくなるから」(鈴木会長)と少し前は訴えていたのに、状況は予想を超えて変化し君子は豹変していく。

日産はマーチの生産を追浜工場(神奈川県)からタイに移管する一方、追浜では電気自動車(EV)「リーフ」の量産を開始している。だが、EVはそれほど売れてはいないのが現状だ。

ミラージュをタイから日本へ逆輸入する三菱自工の益子修社長は言う。

「一番の問題は日本の人口が、減るということ。大きな国内市場と輸出があって国内生産を中心としてきたモデルは、もう通用しません。これから、国内市場は縮小し海外市場は拡大していく。日本では関税がかかり、距離が遠く、しかも円高だから、輸出をしても利益は出ないのです。だから、消費地に近く歴史的にも長く製造してきたタイを生産拠点としていきます。そこからASEAN、欧州に輸出していく」

タイではトヨタが新興国向け戦略車「IMV」のほか10年からHV(ハイブリッド車)「プリウス」を生産。日産やマツダも生産を拡大しているほか、スズキもインドに次ぐ第二の拠点として、タイ工場を今春稼働させている。中国やインド、オーストラリアも含めたFTA(自由貿易協定)、そしてタイ政府が推進している環境車政策(エコカー・プロジェクト)による税優遇も大きい。環境技術を有する日本企業は、エコカー・プロジェクトのメリットを享受できるのだ。