大便は健康のバロメーターといわれる。岡山大学医学部の中尾篤典教授は「腸内細菌は、人のうんちの浮き沈みに深く関係するだけでなく、気分の良さや社交性の高さ、精神疾患の軽快さにも影響を与える可能性がある」という――。

※本稿は、中尾篤典・毛内拡(著)、ナゾロジー(協力)『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

便器
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浮くうんちと沈むうんち、どっちが健康?

トイレで水に浮くうんちと沈むうんちがありますが、どっちが「いいうんち」なのか気になったことはありませんか? 昔の日本では汲み取り式のトイレが多く、うんちは奈落の底へ落ちてすぐにお別れとなり、その形状さえ知ることはできませんでした。川や海で用を足す場合もあるでしょうが、うんちの浮き沈みは、近代文明の恩恵で水洗トイレができて初めてわかったことで、うんちを自分で観察できる時代だから出てくる疑問です。

水に浮くということは、水より密度が低い物質が多く含まれているということであり、当初その原因は脂肪であると考えられていました。膵臓すいぞうの病気で、膵臓から分泌される脂肪分解酵素が出にくくなった患者さんや、手術で小腸を多く切除してしまった患者さんは、脂肪を吸収しにくくなります。こういった患者さんや、脂肪を多く取りすぎる人の便は脂肪を多く含み、水に浮きやすいことが知られています。

では、浮くうんちは不健康かというとそうでもなく、健康な人の10~15%は、常に浮くうんちが出るともいわれています。

1970年代の初めに、ミネソタ大学病院の消化器系内科医が自分のうんちが常に浮いていることに興味を持ち、自分を含めた健康な33人からうんちを提供してもらい調べていました。そのうち9人が浮くうんち、24人が沈むうんちだったのですが、うんちを圧縮してガスを追い出したところ、浮くうんちも沈むようになり、さらに数々の調査を行った結果、うんちの浮き沈みは脂肪の量ではなく、含まれるメタンガスの量によって決まることが明らかになりました。