「Yahoo!メッセンジャー」が「LINE」に負けたワケ

ヤフーを主語にして私が語るならば、PC全盛の時代から「Yahoo!メッセンジャー」というサービスがあったわけです。韓国で当時、はやり始めた「カカオトーク」のようなメッセンジングサービスとして「LINE」が登場し、あっという間に現在のように圧倒的なシェアを持つに至りました。

プロダクトとしては以前からあったのにもかかわらず、スマートフォン時代に、Yahoo!メッセンジャーをいまのLINEのような一強の存在に、ヤフーはしようと思えばできたはずなのに、見立ての甘さ、発想の誤りから、そのようにできず、2014年3月にサービスを終了しました。ヤフーの致命的な失敗の一つですね。

しかし、次の段階では、LINEと経営統合(2021年3月)するという、まったく違う方法で挽回することができました。

最大手とパートナーシップを結ぶ状況になった際、さらに、「その最良の相手が将来も最大手であるのかどうかはわからない」というテーマは別途ありまして、応用編の話です。相手とわれわれの将来は、現時点のスクリーンショットを見るのとは違って、見立てるのが不可能といっていいくらい、めちゃくちゃ難しいことです。手を結ぶと決めた相手を信じるしかない、という次元の世界になってくると思います。

――読書家として知られる川邊氏は、大きな影響を受けた一冊として、《偉大な企業は、すべてを正しく行うがゆえに失敗する――》という有名な一節で知られ、ハーバード・ビジネス・スクール教授などを歴任した著名な経営学者・故クレイトン・クリステンセンの世界的なベストセラー『イノベーションのジレンマ』を挙げる。話題は、昨今のマイナンバーカードをめぐるさまざまなトラブル、DXの遅れが指摘される日本社会の問題を、やさしく解きほぐすように広がった――

なぜ日本は「デジタル後進国」と言われるようになったのか

ここまで申し上げてきたように、たとえばYahoo!メッセンジャーのケースがわかりやすいでしょう。PC上のメッセージングサービスとしてユーザーからの支持もシェアも非常に高かったのに、LINEのように、PCユーザーには振り向かず、スマホに特化したメッセージングサービスに一挙に覆されることになりました。

典型的なイノベーション・ジレンマに、われわれは陥っていたんです。「そうなるかもしれないことをわかっていたのに、なぜ、やらなかったのか」という自問自答を繰り返すことになりました。

DXが日本では後れているという一般論についても、問題をもう少しきちんと分解して考えたほうがいいと思います。日本の社会全体が、あるいは民間のサービス全体がDXで後れているということは、そんなに心配するレベルではありません。アメリカのGAFAMは世界で先端的なサービスを、みんなが活用していますし、われわれだって一所懸命にやっていますから。

川邊健太郎氏
撮影=遠藤素子
利用者数で圧倒していたYahoo!メッセンジャーも「スマホ対応」はしていた。しかしLINE、カカオトークのようなスマホ特化型アプリに利用者がどんどん流れていった。