沖縄県などに生息する「アフリカマイマイ」は、食用目的で持ち込まれた外来種だ。どのような味がするのか。沖縄大学・盛口満教授の著書『マイマイは美味いのか』(岩波書店)より、一部を紹介しよう――。
アフリカマイマイ
写真=iStock.com/Olena Kurashova
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歴史から見るカタツムリ食

本書に書いてきたことを、ここで振り返ってみたい。

カタツムリは、命名、子どもの遊び、食、害、呪術との関わりなど、多様な人々との関係性がある生き物である。本書では、特にその関係史を、琉球列島の島々に追った。

自然史の方面から見れば、移動力の小さなカタツムリは地域ごとに種類が異なっている。例えば多数の島からなる琉球列島においては、島ごとにといっていいほど、多様な種類のカタツムリが見られるわけである。これはむろん、海による地理的な隔離がその要因になっている。また、地質と関わり、見られる個体数にも大きな違いがある。

一方、文化史の方面、つまり、カタツムリと人との関わりを見た場合、例えばカタツムリ食の分布は、沖縄島以南(カタツムリ食について聞き取れる)と与論島以北(カタツムリ食について聞き取れない)で異なる。この断絶は地理的な隔離のせいではなく、歴史的な出来事によるものだろうと考えられる。

カタツムリは食用でもあり害虫でもあった

地理的な要因と、歴史的な要因が重なり合う形で、琉球列島のカタツムリと人との関わりは多様な様相を見せる。黒島において、カタツムリには害虫と食用という二重性があると、人々にとらえられてきた。カタツムリの食利用は代替可能であったため、時代とともに急速に忘れ去られる運命にもある。害虫としてのカタツムリはまた、駆除という場面において、人間の居住世界と異世界という二重の世界に存在するものと考えられていたという側面がある。

このようなカタツムリの多重性の典型例をアフリカマイマイに見ることができる。アフリカマイマイは、時代によって「換金性のある飼育動物」「重要な食糧源」「害虫」「抽象性を伴う嫌われ者」「駆除目的として導入された移入生物による環境改変の要因」と、さまざまに姿を変えてきた。すなわち、アフリカマイマイのこれらの姿は、その時代の人々の姿の投影ともいえる。