医学部志望の優等生が2浪してしまった理由

【和田】作家の林真理子さんにお声がけいただいて、「3.11塾」という震災孤児遺児の教育支援に参加していたのですが、その支援活動の中で「子どもたちの中から医師を誕生させよう」という話が持ち上がりました。とても優秀な子がいたのですが、2浪してしまった。そこで、わたしが会って話をすると、模擬試験の英語が200点満点中の140点だという。「もしかして、1問まるごと手つかずだった?」と質問したら、「そうです」と。

内外情勢調査会で講演する作家の林真理子さん=2021年12月15日、大阪市北区
写真=時事通信フォト
内外情勢調査会で講演する作家の林真理子さん=2021年12月15日、大阪市北区

今の英語の入試問題は速読力がないと答えられないんです。それが5問も6問も出される。となると、この子がやるべきことは英文の速読トレーニングでしょ。でも彼はいうんです、「通ってる予備校では、英語の速読の講義は2学期以降です」って。それで春から予備校に通って、律儀にこれまで2年習ってきたカリキュラムをまた一から受講している。この思考が不思議ですよね。こういう人、けっこう多いと思います。

タクシーが来ないのに列に並ぶ人たち

【橘】以前、ちょっと衝撃的な経験をしました。沖縄から東京に帰る飛行機がひどく遅延して、羽田に到着したときには公共の交通機関がすべて終わっていました。そこでタクシー乗り場に行くと、案の定、ものすごい長蛇の列で、係の人が「並んでもタクシーは来ません。ご自分で手配してください」と大声で叫んでいるんです。

ちょうどタクシー券を持っていたので、そこに書いてあるタクシー会社の番号に片っ端から電話したら、運よく羽田に向かっている車をつかまえることができました。でも不思議だったのは、その間もどんどんタクシー待ちの列が伸びていくことです。電話やスマホでタクシーを手配している気配もない。「いったい何なんだろう、この人たちは」と、ちょっと不気味に感じました。

【和田】橘さんのセンスはまっとうで、前頭葉が働いている証拠ですよね。でも日本の社会だと、「要領がいいやつだ」と批判的に見る人もいる。

【橘】「ずるい」みたいな感じがあるのかもしれませんね。でも、係の人が目の前で、「待っていてもタクシーは来ません」って叫んでいるんですよ。「なのに、なぜキミたちは並ぶのか」という不思議。他の解決策があるんじゃないかとは考えない。