一見、華やかそうなアッパー・ミドルの生活であるが、内情は火の車というのが実態だ。実はいま私たちが真に学ぶべき生活設計の知恵は、ロウアー・ミドルの生活のなかにある。

「二極化」――。富める者と、貧しい者との格差拡大を象徴する言葉として定着してから久しい。そしていま、この二極化は新たなフェーズに入りつつある。

公務員や一部の大企業の社員など、2008年秋のリーマン・ショックの荒波をダイレクトに受けず、大きな賃金ダウンに見舞われなかった人たちがいることは確か。なかには「5000万円以上していた都心のマンションの価格が20%以上も下がっている。この機会に購入しようかと思うのだが」と相談にくる人もいるくらいだ。

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図1 年収1000万円以上でも15世帯に1世帯は貯蓄ゼロ 
図2 大幅に目減りする大企業のボーナス

その一方で全世帯の22.2%は貯蓄がなく(図1参照)、いつ家計が破綻するかわからない綱渡り状態なのだ。これが「収入はない」「年収300万円未満」のロウアー(低所得者層)の話ならまだしも、「1000万~1200万円未満」のクラスで6.6%、つまり15世帯に一世帯が貯蓄ゼロ。さらに「1200万円以上」の世帯でも6.0%が無貯蓄というのだから、驚くばかりである。

もっとも、1万世帯以上の家計診断を行ってきた私の感覚でいうと、年収800万~1500万円の世帯はアッパー・ミドル(上位中所得者層)のポジションにすぎない。世間一般の見方からすれば「裕福な家庭」となるのだろうが、仮に貯蓄があっても100万円、200万円ということがザラ。このアッパー・ミドルには40代、50代のビジネスマンが多く、子供の教育費、住宅ローンの返済などの負担が大きくのしかかっており、台所事情は決して楽ではない。

実はいま、そんな中高年のアッパー・ミドルの一部が“貧乏スパイラル”の罠にはまり込んで、ロウアーへ没落しつつある。フリーターやニートに代表される若年ロウアーの厳しい現実は何ら改善されない一方で、新たなロウアー予備軍として、アッパー・ミドルの転落組が生まれ始めた。これが、先に指摘した二極化の新たなフェーズにおける構造変化の大きな特徴なのだ。

そんなアッパー・ミドルのつまずきの第一歩が何かというと、ボーナスの大幅ダウン。基本給に手をつけることは労働法で定められた「労働条件の不利益変更」に当たるため難しい。そこで会社は業績に連動させる形でボーナスをカットしていく。図2は日本経済団体連合会がまとめた大企業のボーナスの推移で、2009年夏、冬ともに対前年比で15%以上の大幅ダウンとなっている。