アメリカが強力な海軍をつくった理由

また、アメリカでも同様に、国家の権利よりも個人の権利を重んじる思想が広く受け入れられていたため、ドイツ的な政治哲学は懐疑的に捉えられていました。

シーパワーの登場に大きく影響を与えたのが、戦前のアメリカの国家戦略に貢献し、海軍大学校の教官として『海上権力史論』というアメリカ地政学の教科書のような本を記した海洋学者・アルフレッド・セイヤー・マハン(1840-1914)です。

同著の中で、マハンは次のようなテーゼを発表しています。

1.海を制する者は世界を制す。
2.いかなる国も、大海軍国と大陸軍国を同時に兼ねることはできない。
3.シーパワーを得るためにはその国の地理的位置、自然的構成、国土の広さ、人口の多少、国民の資質、政府の性質の6条件が必要である。

つまり、国家を繁栄させるには、シーパワーが必須条件であると提唱しました。この理論が、その後のアメリカでは大きく取り入れられ、強力な海軍をつくり、アメリカ的な世界観(国際秩序)を国外へと拡大する際に大きく参考とされました。

日没の背景にアメリカの近代的な軍艦。3D イラストレーション。
写真=iStock.com/3DSculptor
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「ハートランドを支配する者が世界を制す」

ロンドン大学の地理学院院長でもあったハルフォード・マッキンダー(1861-1947)は、「ランドパワー」と「シーパワー」という二つの力について初めて言及し、現代地政学の基礎を築きました。

1919年に発表した著書『デモクラシーの理想と現実』では「東欧を支配する者はハートランドを制し、ハートランドを支配する者は世界島を制し、世界島を支配する者は世界を制す」と指摘。ハートランドとは、世界最大の大陸であるユーラシア大陸を重要な大陸とした場合、その中心部にあるシベリアやモンゴル、イランの一部を意味します。

ハートランドは、北に位置しているので、北方から攻め入られることはありません。その一方で、海に通じる港を持たないため、ユーラシア大陸の奥に封じ込められてしまいます。

ただ、そんなハートランドが軍事力を高めて凍らない港を求めて南下し、勢力を拡大する。これらの特徴を持つ国家を指して、陸上権力、すなわち「ランドパワー」と呼んだのです。