酒を飲まない人も無関係ではない

NASHは、お酒をほとんど飲まない人でもかかります。ウイルスに感染していない人でもかかります。実際に肝臓がんにまで進む人の比率は、NASHの人よりも「アルコール性脂肪肝」や「肝硬変」の人のほうが少し高いのですが、NASHの人も数%は最終的には肝臓がんになります。

ここで厄介なのは、脂肪肝の程度がひどくなるほどNASHになりやすくなるわけではないということ。つまり、NASHになるかどうかは、肝臓の脂肪化の程度とは無関係なのです。

脂肪化の程度が軽くてもNASHになる人がいます。そして、そういう人はとても多い。逆に、脂肪肝がひどくなってもNASHに進まない人もいます。こうしたケースを目の当たりにするたびに、世の中はとかく不可思議で理不尽だなと思います。

とはいえ、NASHが「脂肪肝に炎症や線維化をともなう異常が起きる」病気であることは確かですから、脂肪肝の人は誰でもNASHになる可能性があると思って用心しておくのがいいでしょう。

肝硬変になると、体のあちこちに異変が生じる

肝臓の炎症と線維化によって、「脂肪肝」→「脂肪肝炎」→「肝硬変」→「肝臓がん」と進行していきます。3つめの段階「肝硬変」とは、肝臓が硬くなって機能しなくなる状態です。ウイルス性の肝炎でも、線維化が進むと肝硬変になります。

「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓でも、肝硬変にまで進行すると、さすがに自覚症状が出てきます。疲れやすくなったり、食欲が落ちたりします。体重が減ることもあります。肝臓の血流が滞って、痔になる人もいます。

右側の腹の腹痛を有するアジアの男性患者
写真=iStock.com/Satjawat Boontanataweepol
※写真はイメージです

肝硬変になると、肝臓以外にもいろいろな不都合が起こります。肝硬変になると、実際にどんなことが起きるのか、もうすこし説明しましょう。肝硬変の症状を知ることで、ふだん肝臓がいかに重要な役割を果たしているのか、あらためて実感していただけるのではないかと思います。

たとえば、ケガをしたときなどに血が止まりにくくなります。血液の「凝固因子」と呼ばれる物質はたくさんありますが、ほとんどが肝臓で作られていて、肝硬変になると、その血液の凝固因子が作られなくなるからです。

また、免疫力がとても落ちて感染症にもかかりやすくなります。これは、コレステロールをはじめとして、いろいろな免疫系にとって重要な物質が不足するためです。

「アルブミン」というタンパク質も不足します。肝臓は食べ物に含まれたアミノ酸を材料に、タンパク質を作ります。これは代謝の機能のひとつです。タンパク質にもいろいろな種類がありますが、「アルブミン」はその代表格です。肝硬変になると、肝臓の代謝機能が十分に働かず、このアルブミンも減ってしまいます。