受信料の目的外使用を禁じた放送法違反だが…

「NHKプラス」でネットの同時配信や見逃し配信が認められているのは総合放送とEテレの地上放送だけで、BS放送は対象外。ネット事業の実施基準で認められていない業務の支出をすれば、受信料の目的外使用を禁じた放送法に違反するのは、言うまでもない。

タブレット上で映画を見ている男
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
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あわてた稲葉執行部は、直ちに内部調査にとりかかり、前田・前執行部が遺した「あってはならない事態」が起きていることを把握。既に発注していた機材などのBS番組配信関連予算の執行を停止し、当該予算の使用目的を変更して、12月から始まる新BSの周知・広報などBS番組配信以外の支出に修正するという苦肉の策をとり、事態の収拾を図ろうとした。

そのうえで、一連の経緯を経営委員会に報告したのは5月16日、総務省に説明に上がったのはさらに遅れて29日だったという。

この間、NHKは、自ら情報を開示しようとはせず、新聞各社が5月30日付朝刊で一斉に報道して、視聴者は初めてNHKのガバナンスがまるで機能していないことを知ることになった。

NHKが、再発防止策を検討する「専門委員会」を設置したのは6月21日。稲葉執行部が事件を把握してから2カ月以上も経っていた。内部での処理に留めようとしたものの、厳しい批判にさらされ、やむなく外部の有識者に委ねざるを得なかった様子がうかがわれる。

前田・前会長に諫言する者はいなかった

今回の「事件」は、意思決定の過程も、発覚後の対応も、お粗末極まりない。

NHKの内部調査によると、前田・前会長は「将来、BS番組のネット配信が実現した場合の準備のため」と語り、放送法に違反している判断だったことを自ら吐露。稟議に加わった理事たちも「ネット実施基準との整合性を理解していなかった」という。

局内では、ネット事業の基本ルールを熟知していなかった前田・前会長が言い出し、正籬・前副会長や伊藤・前専務理事は「おかしい」と感じていたはずなのに諫言せず追従したといわれている。そこには「ネット配信実務の予算ならアウトだが、先行投資なら許されるだろう」と実施基準を独善的に解釈した節が見受けられる。「総務省とすり合わせたうえで慎重に進めなければならない話なのに、認識が甘かった」という声も聞かれる。