「知り合いの中小企業診断士や外食コンサルタントに話したら、みんなパクチー専門店なんてありえないという反応だったんです。一般的なビジネスで成功してから趣味でやれと言われました。でも、すべての料理にパクチーを入れたパクチー専門店はほかにない。雑誌に取り上げてもらったりして、2年ぐらいなんとか持たせれば、食事の提供だけじゃない僕ならではの店づくりも浸透して、ファンになってくれる人も増えるんじゃないかと思いました」

パクチーハウス東京の理想

2007年3月、ライブドアを退職。飲食店開業の準備を進めながら8月9日、「パク」の日に株式会社「旅と平和」を創設し、同年11月、東京の経堂にパクチーハウス東京を開いた。

開業資金にはライブドアの退職金のほか、佐谷さんの事業構想に共感した24人から集めたひと口10万円、計300万円の協賛金を充て、総額890万円をつぎ込んだ。佐谷さんならではの店づくりとは、次のようなコンセプトだ。

「パクチーハウスに来たら今まで知らなかった知識が得られるとか、友情ができるとか、そういう『交流する飲食店』にしていこう」

理想は、ゲストハウスの共有スペースに宿泊者が集い、どこがよかった、あの店はおススメという情報共有が始まって、それをきっかけに行動を共にするような出会いが生まれること。

そのために、コミュニケーションが生まれる仕掛けを仕込んだ。例えば、あえて客席の間に仕切りを設けず、隣席と密着したレイアウトにした。これは、「隣席の楽しい話が耳に入ったり、隣席の人が珍しい料理を食べているのを見て、思わず話しかけること」を期待したものだ。

料理も、パクチーだけのかき揚げ「パク天」、注文時に舌を噛みそうな「パクパクピッグパクポーク ビッグパクパクパクポーク」(豚バラやわらか煮込み~中華風ソースのパクチーのせ)、「パク塩アイス」など、隣席の人が注文するだけで気になってしまうネーミングと内容にした。

オーナーの佐谷さん。
筆者撮影
パクチーハウス東京では次々にユニークな手を打った。

忘れられない女性客

店を開いてからも、どんどん新しいアイデアを取り入れた。ビールが1リットル入る「メガジョッキ」はあまりに目立つため、立派なコミュニケーションツールになった。満席時に来店した人のために、店の一番目立つ場所に用意した立ち飲みスペースでも、お客さん同士が自然と話をするようになった。見知らぬ他人との楽しい会話を求めて予約席で1次会、立ち飲みスペースで2次会をする人もいた。

パクチーのパクにかけて毎晩8時9分には、佐谷さんの呼びかけで、全員で乾杯した。そのコール「ビラビラビーラ! パクパクパク!」は、スウェーデンの乾杯の際に行われる音頭をパクったもので、客席は大いに盛り上がった。