「細長いペットボトルに入った水」と「幅広のペットボトルに入った水」のどちらが高級に見えるだろうか。行動経済学コンサルタントの相良奈美香さんは「人は無意識のうちに細長いものは高級、低くて幅があるものは親しみやすくて安心だと感じるものだ」という――。

※本稿は、相良奈美香『行動経済学が最強の学問である』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

ボトル入りウォーター
写真=iStock.com/mediaphotos
※写真はイメージです

笑顔を作れば楽しくなる「身体的認知」

アマゾン、グーグル、アップル、ネットフリックス……。いま世界の一流企業がこぞって「行動経済学」を取り入れています。なぜでしょうか。

それは、行動経済学が「人間の行動の原理」を解明する学問だからです。ビジネスの対象は紛れもなく「人間」。ですから、「人間の行動の原理」がわかれば、消費者の購買意欲をそそることも可能なのです。

そんな行動経済学の理論の一つに、「身体的認知」があります。私たちは情報をまっさらに認知していると思いがちですが、実は人間にはそれを曲げてしまう「認知のクセ」が存在します。

この「認知のクセ」は脳内で起こるばかりでなく、実は身体が受ける情報は神経伝達物質として脳にフィードバックされることはよく知られている通りです。この「身体的認知」は、身体から入って脳に情報が伝達される際にも認知のクセが生まれるというものです。

クラーク大学のLaird博士の研究によれば、実際には面白くも楽しくもない場合でも、意図的に笑顔を作ることで、脳が「あれ、笑っているな。笑っているなら楽しいに違いない」と錯覚し、実際に楽しくなると結論づけています。

温かいお茶を出されると「この人は温かい人だ」と感じる

さらに被験者にマンガを読ませた実験では、同じマンガであっても、意図的に笑顔を作って読む場合と、しかめっ面で読む場合、笑顔で読むほうが面白く感じられるという結果となりました。

その他にも、人の話を前のめりで聞くと、たとえ興味がない話であっても興味深く感じるというのも身体的認知の例です。

他にも「身体的な温かさが、心理的な温かさにつながる」という研究もあります。例えば、初めて訪問する会社で、温かい飲み物を出された場合と冷たい飲み物を出された場合とで、商談相手の印象が変わります。

温かいお茶を出してもらった場合だと、相手のことを「ああ、この人は温かい人だ」と人は思い、アイスティーなど冷たい飲み物だと、「あれ、この人はなんだか冷たい人だ」と錯覚をします。身体と脳がいかに密接な関係にあるか、この研究からも読み取れます。

このようにして身体感覚は、無意識な認知のクセとして人間に刻み込まれているのです。