長距離トラックドライバーの労働環境は、なぜ改善されないのか。元トラックドライバーの橋本愛喜さんは「かつては『ブルーカラーの花形職』と呼ばれ、トラックや運転が好きな人たちがこぞってドライバーになった。『稼げない仕事』に変わったいまでも、そうしたドライバーが業界を支えているが、荷主たちはそうした運転手たちの『好き』に甘えている」という。橋本さんの新著『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)からお送りする――。
トラック
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トラックドライバーは「ブルーカラーの花形職」だった

あまり「何年前こういうことがあった」的な言い方を連発すると年齢がバレるのでアレなんやが、バブルのころ、こんな決め台詞が話題になったCMがあった。

「24時間戦えますか」

スーツ姿の男性たちが歌いながらそう問いかける栄養ドリンクのCMだ。

今そんなこと言ってみろ。秒で「パワハラだ」と訴えられる。

過労死や自死などが起きたことで、日本では「働き方」を見直す機運が高まり、2019年に働き方改革法が施行されるに至った。しかし実のところ、2024年から始まるトラックドライバーたちの働き方改革施行は、当事者である彼らからはすごい勢いで歓迎されていない。

自分たちの労働時間が減り、休みが増えればゆっくり体を休められるしやりたいこともできるのに、現場からは「誰の許可得て労働時間減らしとんじゃ国は」という憤りの声が聞こえる。

このCMが流れていたころ、トラックドライバーという職業はブルーカラーの花形だった。某大手運送会社で3年走れば家が建ち、5年走れば墓が建つなんて言われ方もしていた。墓が建つくらいだ。過酷ではあったが、しっかり稼げたのでドライバーになろうとする人も多かったのだ。

規制緩和で長時間労働、低賃金の職種に変貌した

そんな運送業界に異変が起きた事件がある。1990年の「規制緩和」だ。

これまで4万5000社程度だった運送業者が6万3000社にまで激増。その結果、競合他社で荷物の奪い合いが起き、運賃の値下げはもちろん、「うちはこんなサービスもしまっせ」といって、荷主のもとで検品、仕分け、棚入れ、棚卸し、陳列などの附帯作業をドライバーが無料でさせられるようになった。

さらに、条件やスケジュールの関係で自社で運べない荷物を同業に流す行為が横行。見事なまでの多重下請構造が出来上がり、ピンハネに次ぐピンハネによって、実運送企業(最終的に実際荷物を運ぶ企業)は、走っても赤字になるが次の仕事に繋げるために断れないケースまで発生する始末。

さらにそこに休憩・休息期間遵守の徹底や、「安全運行のため」「トラックドライバーのため」と言いながら、現場を知らない人たちがつくった(悪気はなくも)誰の得にもならないような明後日なルールによって、現場がより走れなく、稼げなくなっていったのである。

こうして「ブルーカラーの花形職」は、長時間労働はそのままに、他産業よりも賃金が安い職種へと変貌を遂げたわけである。