損得勘定をしたら辞めた方が少しはまし

テイクアウトのメニューも何種類か置いてみたが、そもそも近隣のオフィスに人がいないのだから売れるわけがない。

「ランチタイムの後はカフェタイムにしていたのですが、こっちも閑古鳥が鳴いていました。主な客層は学生なんですが、登校していないから店に寄るわけがありません」

結局、この店舗は閉店することになり品川区にある別店舗に異動したのだが、転勤して2カ月もしないで店のスタッフがコロナウイルスに感染。

「数人のお客さんとその家族にも感染が拡がってクラスターの発生源になってしまったわけです」

2週間の営業自粛後に再開したが客足は戻らず、更に2度目の緊急事態宣言が発出されたため、また閉店することに。

「これでリストラです。配置替えできる店舗はない、本部も人を削る予定なので身の振り方を考えてくれと言われたわけです」

会社側から辞めろとは決して言わない。現状は極めて深刻で、先の見通しが立たない状態だから、進退は自分で考えてくれ……。こんな塩梅だった。

「遠回しだけど言いたいことは分かります。それほどアホじゃない」

別店舗の店長、エリアマネージャー、本部の開発スタッフなどもポロポロ辞め始めたので、これは最悪の事態もあるのではと心配になった。

「コロナ騒ぎが1年経った頃から同業他社の破綻がいくつかありましたし」

今ならとりあえず退職金は払ってもらえそうだが、本当に潰れてしまったら無一文で放り出されてしまう。再就職するには若い方がいいに決まっている。損得勘定をしたら辞めた方が少しはましだろう。こういう結論に至った次第だ。

「退職届を出したら取締役が来て、状況が回復したら呼び戻すからと言ってくれたのですが、本心ではそんなこと絶対にないと思いました」

アルバイトすら見つからない

退職したのは2021年7月。遊んでいられるわけないから次の仕事を探したが、これが塗炭の苦しみだった。

「正社員の口を探しても、資格が必要だったり給料が低かったりで思うような仕事は見つかりません。当時は28歳でしたが微妙な年齢で若くはない。新卒や第二新卒のようなフレッシュさはありませんから」

依願退職ということだから失業手当の支給も当分先。蓄えを食い潰すのは危険だと思ったからアルバイトを探したが、これも狭き門。

「勝手知ったる外食関係は営業自粛や時短で人なんて採らない。コンビニの面接でも28歳ではいい反応がなかった」

お酒のディスカウントストア、持ち帰り弁当屋、ドラッグストア、食品スーパーなど募集しているところを見つけては連絡し、面接してもらっても使ってくれるところはなし。

弁当屋
写真=iStock.com/Skyimages
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「以前は自分も選考する側だったから分からなくもない。若い学生やフリーターなら使いやすいから歓迎する。だけど30歳間近で世間ずれしている人間は遠慮してもらいたい。世の中ってそういうものですよ」

実際は会社都合のリストラみたいだが形は自発的退職。そうすると失業手当が支給されるまで時間がかかる。

「社会人を6年やっていたからそれなりの蓄えはあります。だけど食い潰すわけにはいけません。同棲していた彼女にもどうなっているの? ってせっつかれていた」