G7広島サミットでは、核軍縮に焦点を当てた「広島ビジョン」がまとめられた。一方で、中国、ロシア、北朝鮮の核兵器の脅威は高まり続けている。日本はどのように対峙すべきか。政治ジャーナリストの小田尚さんは「サミットでは、核抑止の議論は影が薄かった。米国から日本の戦略的価値が再計測されている中、『核共有』についてタブー視せずに議論していく必要がある」という――。
2023年5月19日、広島で開催されたG7首脳会議の一環として平和記念公園を訪問し、花輪を捧げた後、黙祷をする(左から右)ジョー・バイデン米国大統領、岸田文雄日本国首相、エマニュエル・マクロン仏大統領の様子が外務省により撮影・公開された。
写真=外務省/AFP/時事通信フォト
2023年5月19日、広島で開催されたG7首脳会議の一環として平和記念公園を訪問し、花輪を捧げた後、黙祷をする(左から右)ジョー・バイデン米国大統領、岸田文雄日本国首相、エマニュエル・マクロン仏大統領の様子が外務省により撮影・公開された。

G7が戦時下の広島サミットで結束

G7広島サミット(先進7カ国首脳会議)が5月21日、3日間の日程を終え、閉幕した。ロシアによるウクライナ侵攻が続き、プーチン露大統領が核兵器の使用を示唆して国際社会を恫喝する中で、G7首脳は、核の使用も威嚇も許されないとのメッセージを発信したうえ、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加し、対露制裁やウクライナ支援の強化で一致した。被爆地・広島で開かれた、戦時下のサミットで、G7がウクライナ「連帯」でまとまったという事実が歴史に刻まれた。

岸田文雄首相は、「核兵器のない世界」への決意を示しつつ、核不使用の継続性をうたい、核軍縮・不拡散に焦点を当てた個別声明「広島ビジョン」をまとめ上げた。G7首脳らが広島原爆資料館を訪れ、被爆の実相に触れたことも、その意義を高めよう。

バイデンが示した核兵器の現在

こうした「成果」に水を差すつもりはない。だが、バイデン米大統領が原爆資料館の芳名録に「世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう」と記した、その傍らに核攻撃を命じるための「核のボタン」を携行させていたのが、現実なのである。

そもそも、核軍拡を続けながら、力による現状変更を試みる中国、核兵器使用をちらつかせ、ベラルーシに戦術核の配備を開始したロシアが、広島ビジョンにまともに耳を傾けることがあるだろうか。

核兵器から国民を守る責任がある

広島サミット開幕に先立つ5月18日の日米首脳会談は、米国の「核の傘」を含む拡大抑止を確認したとされる。だが、サミットでは、中露、北朝鮮などの核兵器の脅威からG7の諸国民をどう守るかという核抑止の議論は、影が薄かった。G7では、米国、英国、フランスが「核保有」国、ドイツ、イタリアが「核共有」国、日本は「核の傘」に入っており、核をめぐる環境がそれぞれ異なるにもかかわらずである。

岸田首相は、サミット閉幕後の21日の記者会見で、「我々首脳は、二つの責任を負っている」と述べ、「核なき世界の理想を追う責任」とともに、「国民の安全を守り抜く責任」に言及した。そうならば、国民を守る責任をもっと語るべきだったのではないか。

核大国からの攻撃を防ぐためには「自分を守る力、ハードパワーが必要だ。核を保有しない場合は、核大国との同盟は必須だ。そして、いったん核保有したら手放してはいけないことが、ウクライナ戦争から得る三つの教訓だ」(防衛省筋)という辺りから説き起こしてもらいたい。