戦略的連携に動く習近平とプーチン

【手嶋】ウクライナ東部の要衝バフムトの攻防を巡って、いまこの瞬間も、ロシアとウクライナ両軍の兵士は死闘を繰り広げています。こうしたさなか、中国の習近平国家主席が、2023年3月20日、ロシアのプーチン大統領をクレムリン宮殿に訪ねて会談しました。

【佐藤】ウクライナ戦域で戦いが始まって以来、習近平主席がモスクワを訪れるのはこれが初めてです。しかも両首脳は、クレムリン会談の冒頭の模様をメディアの前でそのまま公開しました。これもかなり異例のことです。

【手嶋】習近平主席は、ウクライナ戦争に関する12項目の和平提案を2月に明らかにしています。このモスクワ会談でプーチン大統領がこの中国提案にどう応じるか。国際社会の目はこの一点に注がれていました。

【佐藤】まずプーチン大統領が会談の冒頭で「ウクライナの深刻な危機の解決を目指す中国の提案をよく承知している」と述べ、中国の「12項目の和平提案」を「建設的」だと評価し、真剣に受け止めていると伝えました。これを受けて習近平主席は「中ロは包括的・戦略的協力パートナーシップ関係にある」と述べ、緊密な両国の関係をテコに和平の糸口を探っていくと応じました。

岸田総理には「ウクライナに行かない」選択肢もあった

【手嶋】ただ、このクレムリン会談でロシアのプーチン大統領は、停戦に同意したわけではありません。そもそも中国の和平提案なるものには、領土の具体的な扱いが全く示されていません。中ロは水面下でかなり具体的なやり取りを交わした模様ですが、ロシア側はいまの時点では和平交渉のテーブルに着くことに難色を示したのでしょう。

【佐藤】ロシア側としては、14年に併合したクリミア半島の親ロ派が支配するドンバス地方に加え、22年の侵攻で併合したとする4州の大半を固めて、より有利な状況で交渉のテーブルに着こうとしているのだと思います。

【手嶋】ただ、今回のモスクワ訪問で、仲介役を自任する習近平主席は、プーチン政権の側に一段と寄り添った。その一方で米国のバイデン大統領もキーウを電撃訪問し、続いてG7(先進7カ国)のヒロシマ・サミットで議長をつとめる岸田文雄総理もウクライナを訪問し、揃って全領土の奪還を目指すゼレンスキー大統領を支持する姿勢を鮮明にしました。

G7の首脳でウクライナを訪れていないのは岸田総理だけでした。ただ、ウクライナ側としては、バイデン大統領を迎えることを最優先していましたから、岸田総理の現地入りは後回しになったのです。行くならもっと早く、もしくは、敢えて行かないという選択肢もあったと思います。