仕事がハードではない職場に入ったのに、長続きせず辞めてしまう人がいる。文筆家の御田寺圭さんは「ゆるい職場では、時間の流れが緩慢に感じられてしまう。充実感や成長の実感を得られない職場で冗長な仕事をこなす時間は、健康な人間のメンタルには堪えるものだ」という――。
階段に座る男性
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「のんびり働ける職場」なのに長続きしない

仕事がゆるくて、のんびり働ける職場にせっかく入ったのに、長続きせずに辞める。

――そんな人が近年じわじわと増えているという。実際、そうしたニュースを目にすることも増えてきた。

「いやいや、なんでそんなもったいないことをするんだ」と疑問に思われるかもしれない。しかしながら、そういったいわゆる「ホワイト企業(ホワイト部署)」に入った人でなければ分からないつらさが存在しているのだ。

前職がとんでもないブラック企業で、身も心もボロボロに摩耗してしまった人からすれば、転職先にはその心身のダメージをゆったりと癒やせる、のんびりとした雰囲気の、さながら温泉宿のような「ゆるい職場」はいいかもしれない。しかしながら、そうした特別な事情がない常人はほどなくして「ゆるい職場」に耐えられなくなっていく。

「もうハードな仕事はこりごりだ」
「スケジュールに追われる日々はもうたくさんだ」

そんな気持ちを抱えている人にとっては、たしかに「ゆるい職場」は魅力的に見える。実際のところ「ゆるい職場」では、山積みの仕事を片付けるために残業だらけになったり、パンパンに膨れ上がったスケジュールで目を回したりすることもない。ゆっくりとしたペースで、心身に負担なく、穏やかに日々の業務をこなしていく、そんな環境が用意されている。

「まだ始業から1時間しか経ってないのか……」

だが「ゆるい職場」はその“ゆるさ”ゆえに、時間の流れが緩慢になってしまう。

目まぐるしいスピード感も、業務のハードさもない。たしかにそれはまったりと心穏やかであるが、言い換えれば手持ち無沙汰で緊張感や張り合いのない時間が、体感的にとても遅く過ぎていくのをじっくり待たなければならないことも意味している。

とくにノルマも課せられていない、日々のルーチンワークをゆっくりとこなしている最中に時計をちらちら見るが、ほんの少ししか時間が進んでいない。「ええっ、まだ始業から1時間しか経ってないのか……」というじれったい気持ちを味わいながら勤務時間を送ることになる。

ブラック企業のように、険悪な人間関係のギスギス感はないが、しかし充実感も成長性も感じられない仕事場と業務内容で、のんびりとしたスケジュール感のもと、冗長な仕事をこなしていく時間は、健康な人間のメンタルにはなかなか堪えるものだ。