むし歯を防ぐためにはどうすればいいのか。東京医科歯科大学の品田佳世子教授は「日本では『なぜ歯磨きをするのか』と聞いても答えられない人が多い。むし歯や歯周病を防ぐには、歯磨きだけでは不十分であることを知ってほしい」という――。(取材・構成=フリーライター・宮崎智之)(前編/全2回)
歯磨きをしようとする男性
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歯の病気は別のさまざまな病気と関係している

――そもそも、なぜ歯の健康が重要なのでしょうか。

歯の病気は、さまざまな病気と関連しています。歯周病は、糖尿病、心臓病、骨粗しょう症、肥満、脳梗塞、誤嚥ごえん性肺炎、関節リウマチ、そして近年では認知症との相互関連が指摘されています。健康な歯を維持してきちんと咀嚼できることは全身の健康とも関連してきますし、美味しく食事をして、口臭を気にせず笑顔でお喋りができるかなど、QOL(生活の質)にも影響してきます。

品田佳世子教授
品田佳世子教授(写真提供=東京医科歯科大学)

――むし歯になりやすい人と、そうでない人がいると聞きます。

むし歯や歯周病は「多要因の疾患」と呼ばれています。実にさまざまな要因がミックスされて、むし歯や歯周病になりやすい人と、なりにくい人の差が出てきます。たとえば、食事やストレスといった要因のほか、たばこやアルコールといった生活習慣も関係します。

出産直後より、特に1歳半から2歳半の間に伝播される口腔こうくう細菌によってむし歯になりやすくなるなどといった後天的な要因もありますし、その人の歯の感受性や、唾液の量、成分の構成、顎の大きさや歯並び、歯の形など遺伝要素も関係してくることがわかっています。

さらに、アメリカでは「健康格差」が問題になっていて、社会階層、教育、収入といった社会環境要因、知識、態度、習慣といった保健行動要因も、歯の健康に間接的に影響があると言われています。

国民皆保険のある日本は予防に無頓着

――「健康格差」は日本にもあるのでしょうか。

日本には国民皆保険があるので、健康格差はアメリカに比べると少ないです。だからこそ歯の健康に対する意識が低い部分もあります。予防には力を入れず、歯が悪くなってから歯科にかかる人がほとんどなんですね。アメリカでは自分で保険に入るので、悪くなる前の段階、すなわち予防的に歯科にかかる人が、いわゆる「健康格差」の上の階層にいる人たちには多い傾向があります。