分配率が水準を超え賃金抑制がつづく

社員の給与をどのように決めるのかは、会社にとってもなかなか難しい問題だ。従業員の給与は言うまでもなく人件費だが、この人件費を決める際の目安の一つに労働分配率がある。

労働分配率は、企業が生み出した付加価値額に占める人件費の割合をいい、計算式は〈労働分配率=人件費÷付加価値額×100〉になる。付加価値とは、売上高から仕入れ原価や原材料費、外注費等の外部購入費用などを引いたもので、人件費は給与のほか、会社が負担する法定福利費や厚生費などを加えたもの。だから労働分配率は、企業が生み出した付加価値から、労働者にどのくらい分配したのかの尺度でもある。適正な労働分配率は、労使間において常に議論になり、賃上げ交渉の際にはたびたびクローズアップされる。

労働分配率は不況時には高まり、好況時には低くなる傾向がある。景気拡大期においては付加価値が拡大、つまり分母が大きくなり、人件費の伸びを上回ることで、労働分配率は低下するからだ。逆に景気後退期には成長率が低下して企業の付加価値が下がっても、企業は雇用維持の対応を迫られるため、結果として労働分配率は上昇する。

また、企業として労働者だけではなく、生み出した付加価値の一部を投資などのため内部留保を増やす必要があるほか、株主への分配にも気を使わなければならない。このため企業は労働分配率が高くなると、労働分配率を下げるために人員削減や賃金の抑制を進めることになる。

労働分配率は産業や企業規模によって大きく異なるが、平均で適正な労働分配率は63%程度だ。日本の全従業員の7割を占める中小企業は付加価値が低いため労働分配率は高い。利益の少ない中小企業は可能な限りの賃金を払っていることになる。

2009年10~12月期の労働分配率は66%と適正水準より高く、当面は賃金抑制が避けられない。ただ労働分配率がほぼ適正水準になり給与のアップを決めるには、一人当たりどのぐらい付加価値を生んだのかを測る労働生産性が重要だ。

一人当たりの賃金は、一人が生み出す付加価値に対応して支払われるもので、労働者の賃金に回される割合は、適正な水準よりも高ければ賃金を減らさなければ経営は圧迫され、低ければ労働生産性ほど賃金を払ってないことになる。したがって、労働分配率が適正水準まで下がれば、それは一人当たりの付加価値、つまり労働生産性が増えたペースに比例して賃金を払うのが基本的な考え方になる。

リーマンショックまでの05年から07年までは企業業績が過去最高益を更新したにもかかわらず、一人当たりの賃金が抑制されており、適正な水準より低かったといえる。なぜ、そのとき賃金が増えなかったのか。賃上げや時短にも配分されていた企業業績の向上が、最近は株主への配当や内部留保に回されたからとの指摘もあるが、大きな要因は、非正規社員を中心に賃金上昇につながっていないことだ。非正規社員の比率が増え、正社員と非正規社員との賃金格差が存在しているからだ。

正社員の賃金はそれなりに増えているのに、景気が良くなっても、非正規社員の賃金があまり上がらない構造になっていて、それが消費の低迷につながり、モノが売れなくなっている。このため企業は値下げを行うために賃金を削減し、それが物価下落に拍車をかける状況だ。そういう意味でも次の景気回復期には、非正規の人にも業績回復の恩恵が及ぶ仕組みを考え、労働分配率を適正な水準にとどめておくことが重要である。

※すべて雑誌掲載当時